13 / 108

抱く感情

口に運ぼうとしたパンがぽとりと落ちる。 樹は向かいに座った仏頂面の相手の言葉に手を止めていた。 「わ、悪い幸…。もう一度言ってくれ…」 その返しに、幸は「何度も言わせるな」と言うようにひと睨みする。 「だから、ハーブはどこに行けば買えるかと聞いてる」 「……お前、ハーブに興味があるような乙女だったの……イエ、何でもないデス」 ギロリと睨まれ、途中で口をつぐむ。 いきなり呼び出されて何事かと思えばこれか。 なんだってあの究極マイペースな幸が… もしや彼女でもできた? 誰に? 幸に ……いやないだろ。 「おい。今失礼なこと考えただろ」 「え。なにお前、エスパー?」 否定しない樹に何かを言おうとした幸だったが、携帯が鳴ったことで口を閉じる。 どうやらラインに着信が来たようだ。 こいつが誰かとメッセージ交換? 松尾さんとかかな。 しかしすぐにその選択肢は排除する。 何故なら携帯を見る幸の顔が、彼にしては信じられないほど優しげだったからだ。 途端大人しくなった幸に狼狽する。 一体こいつ、どうしたっていうんだよ…。 「……それ。誰からか聞いてもいい?」 「ん?あー、雪永だ」 「……雪永って、あの雪永千里くん?」 「他にどのがあるのかは知らんが」 一瞬思考が停止したが、なんとか我に返ってさらに尋ねる。 「雪永くんがなんだって?」 「今日の夜、休みになったらしい」 「………は?」 「だから、今日の夜に予定が空いたってメッセージがきたんだ」 「……それで、それがどうかしたのかよ」 「どうしたって、彼とは飲みに行く約束をしていたから…」 「飲みに!?約束!?あのお前が!?」 「……だから、他にどのがあるんだよ」

ともだちにシェアしよう!