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抱く感情6

携帯を手に悪戦苦闘する雪永を眺める。 彼の住んでいるマンションは至って普通のマンションで、とても人気俳優が暮らす所には思えなかった。 介抱されるようにソファーに座らせもらい、雪永はカーペットの上で体操座りをして携帯をいじっている。 なんでも彼は機械音痴で、携帯の使い方もままならないのだとか。 確かにメッセージのやりとりをしていた時も、文面が少しおかしかった気がする。 《きようの午後 仕事が泣く あいております》 などという漢字と口調がおかしい内容が送られてきていた。 というか小文字機能ぐらいは普通分からないか? 恐るべき機械音痴だ。 そして打つのも遅い。 ひとつひとつ人差し指でタッチしながら、ムムゥと眉を寄せて今も頑張っている。 そうしてしばらくすると、彼は大きく息を吐いて携帯をローテーブルに置いた。 そして疲れ切った顔で俺を見上げる。 「すみません。マネージャーさんと連絡をとっていて」 「いや。邪魔してるのはこっちだから、気を遣わなくてもいい」 家についてから20分。 酔いも覚め始め、大分落ち着いてきた一方 冷静になり出した自分が、自身に訴え始めていた。 何をしているんだ、俺は。と。 たいした面識もない中いきなりお邪魔して、ちゃっかりくつろいでいる。 これは一体どういう状況だ。 おかしい。こんなのは絶対おかしい。 今すぐ帰れ。彼に迷惑だ。 そうして立ち上がろうとした時、窓の外から聞こえた音に瞠目した。 「ん。どうしました?」 「いや。ちょっと失礼するぞ」 「へ?あ、はい」 早歩きで窓へと向かい、カーテンをめくる。 伺えた外は、まるで台風のような悪天候になっていた。

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