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ライバル出現?10
ソファーに1人きり。
部屋は静かで、時計のカチカチと鳴る音しか聞こえない。
千里はコンタクトがごろごろすると言って洗面所に向かった。
なので俺はリビングで静かに待機している。
勢いで家まで押しかけてきてしまったが、よかっただろうか。
冷静になり、今頃そんなことを心配する。
嫉妬して勝手な行動をして、迷惑なことをした。
俺はこんな人に依存するような人間だったのだろうか。
千里と会ってからの自分はまるで別人のようで、時々己の言動が分からなくなる。
項垂れ溜息をついていると、洗面所のドアが開く音がした。
その後何かがぶつかるような音がして、リビングのドアがゆっくりと開かれる。
入ってきた千里は、どこか覚束無い足取りだ。
おでこのあたりも少し赤くなっている。
どうしたのかと歩み寄れば、ジッとこちらを見上げて、次にはグイッと顔を近づけられた。
「っ、な、んだ…?」
「……幸さんですか」
「は?」
「すみません、こっちに眼鏡忘れて…」
いきなり縮まった距離に固まる俺には気づかず、千里は「めがねめがね…」と徘徊老人のようにウロウロし出す。
その様子に俺は気を取り直して、彼のお目当ての眼鏡を代わりに取ってやった。
「ほら」と渡せば、お礼を言ってノロノロとそれをかける。
その小さい顔に大きめの眼鏡を付けると、千里はふぅ〜と安堵したように息を吐いた。
「はぁ。やっと落ち着きました」
「…あんなに近づかないと、見えないのか?」
「え?あ、そうですね。最初棚かなんかかと思っちゃいまして。確かめたら幸さんでした」
「……」
ほわんと笑う千里は微笑ましいが、棚と間違えられるのは少々複雑だ。
というか部屋の真ん中に棚があるわけがないだろう。
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