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災い2
町の喧騒を抜け、路地を通り、隠れ家のような静かな場所にポツンと建つ一軒の店がある。
看板には麻 紅 路 の文字。
古く小さな店だが、小汚さは感じられない。
よく磨かれたガラス扉を開け中に入れば、メインの通りからは離れているにも関わらずなかなかの繁盛ぶりだった。
すると厨房から顔を覗かせた理玖 が、俺を見るなり手を振ってくる。
ここには5、6年前に偶々訪れてから、時折ふらりと立ち寄るようになった。
そのうちに人柄のいい理玖と話をするようになり、すっかり顔馴染みの仲になっている。
さっきから俺の後ろにいる千里は、小さな体をさらに小さくして周りをキョロキョロ見渡している。
まるで子猫を拾ってきた気分だ。
安心させるようにポンポンと彼の頭に触れ、「こっちだ」と手を引いて先導する。
「幸さん、連れがいるなんて珍しいですね」
俺たちを席に案内した店員の光也 は、そう言って水とお絞りをテーブルに置く。
彼は理玖の従兄弟らしく、高校1年の頃からここでバイトし始め、高校卒業後正式な店員として働くようになったのだそうだ。
今は確か丁度20歳だっただろうか。
興味津々と言った様子で千里に視線を向けた光也は、次には相手の正体に気付いたらしい。
途端にその目を輝かせ始め、グイッと身を乗り出し千里に詰め寄った。
「うわぁすごい!本物の雪永千里くんだぁ!ゆきゆきコンビを生で見れるなんて感激だよ!」
「え、あ、えと…」
「落ち着け光也。千里が困ってる」
「あ、ごめんなさいつい!じゃあ俺はこれで。注文はいつものでいいですか?」
「あぁ。千里はどうする?」
「えと、えと……小籠包の、このセットで」
「分かりました!それではごゆっくり!」
あたふたする千里に気付いた光也は、少し名残惜しそうにしながらも仕事に戻っていった。
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