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災い7

「……別に、彼とは何もないです。さっきは、本当に偶々、会っただけで…」 話す千里の声は震えていた。 その手をぎゅっと握り、必死に何かに耐えている。 俺は何をしているのだろう。 カッとなって心にもないことを言って。 余計に千里を傷つけた。 これじゃあの男と同じじゃないか。 「……悪かった。酷いことを言ってしまって」 傷つけたくなんかない。 俺はただ、千里に笑っていて欲しい。 ハーブティーを飲んだ時のように、 暖かく、優しく、 ほわんと笑う彼の笑顔が見たい。 「…なぁ。抱きしめてもいいか」 「…いやです」 「じゃあ頭を撫でるのは?」 「…ぃゃ」 「俺のこと、嫌いか?」 「違います。ただ…」 震える体を、自分で抱き締めて、 千里は言う。 「おれには…、誰かに縋る資格なんてないんです…っ」 1人何かに怯え、苦しむその姿に、 幸の体は自然と動いていた。 ぽんっと、その頭に手を乗せて撫でる。 「!」 「いい子いい子」 「…ぇ」 「千里はいい子だ。汚れてなんかいない」 その言葉にきょとんとしていた千里だが、次にはかぁぁっと顔を赤らめた。 「こ、子供扱いしないでください…!」 そんな言葉、成人男性にかけるようなものではない。 そう言って動揺する千里に、幸は優しく笑みを浮かべる。 その笑顔に胸が締め付けられた。 何故この人は、こんなにも自分に近づこうとするのだろう。 自分の深い部分に入られるのが怖い。 自分の醜くて、汚れた部分を知られてしまいそうで、怖くて逃げ出したくなる。 でも、その一方で とても安心している自分がいた。 側に誰かがいてくれること。 それがこんなにも心和むことだったのを、 時間が経つに連れ、いつの間にか忘れてしまっていた。 縋り付いてしまいたい。 その腕に抱きしめられて、思いっきり泣きたい欲求に駆られる。 でも、それはできない。 「…やっぱおれ、帰ります」 「え」 「すみません。今日はありがとうございました」 「っ、おい千里!」 その声を背に駆け出した。 家を出て、立ち止まることなく走り続ける。 これ以上側にいたら、自分はきっと縋ってしまう。 でも、そんなことはしたくない。 してはいけない。 だっておれは、それだけの過ちを あの日、犯してしまったのだから。

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