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すれ違い

ボーッと眺めていたテレビにCMが流れている。 大手の菓子会社が新しく出す、イチゴ味のチョコレートのCMだ。 パクッとチョコを食べる、雪永千里の姿。 赤いニットカーディガンがよく似合っている。 最後の愛しらしくニコッと微笑む笑みには、老若男女関係なく胸を打たれない者はいないだろう。 「あぁ、かわいい…」 そう呟いた俺の視界に、大きな手が現れ目の前でプラプラと揺らされる。 顔を上げて手の主を見ると、呆れ顔の間瀬がこちらを見下ろしていた。 千里が俺の家を飛び出して行ってから2日。 あれから会う機会もなく、何も話せないままでいる。 今、幸は樹の家のソファーに座っていた。 すっかり放心状態だった幸を、見かねた樹が家に誘ったからだ。 「松尾さんが心配してたぞ。あんま心配かけてやんな」 「…別に。仕事はちゃんとしてる」 「そういう問題じゃねーのっ」 溜息をつく間瀬。 その一方で、俺は千里へと思いを馳せる。 ハーブティを飲んでいる彼 慣れない手つきで携帯を触る彼 眠ってしまっている時のあどけない彼 ほわっと優しく笑う彼 そのどれもが、どうしようもなく愛おしい。 あの日、千里を傷つけてしまった。 家を飛び出していく彼を止められず、何もできなかった自分に苛立ちを覚える。 「あの毒舌俳優の幸様がすっかり虜だな」 「?」 「今、雪永くんのこと考えてただろ」 口をつぐむ俺に、間瀬はもう一度溜息をつく。 「お前が不安定なのも、雪永くん関係?」 「……」 「何があったのか知らねーけど。本当に大切に思うんなら、手放すな。後で後悔するぞ」 「…なんだ。経験でもあるみたいな言い方だな」 ふと思って指摘してみると、間瀬はふっと笑みを浮かべた。 「さぁ。どーだろうな」

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