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すれ違い2
ふと目の前のテレビを見ると、大手の自動車会社のCMがやっていた。
画面には黒の大型車を運転する片岡幸の姿。
グレーのジャケットがよく似合っている。
ふと向けられる瞳。
その仕草から感じる大人の色気には老若男女関係なく心を打たれない者はいないだろう。
「かっこいいなぁ…」
そう無意識で呟いて、「ハッ、おれは何を考えて…!」と我に返り頭をブンブン振る。
今日は引きこもりのおれを気遣い、時々連絡をくれる事務所の先輩(多分幸さんや間瀬さんと同期だ)の斎賀 恭弥 さんにお呼ばれしていた。
恭弥さんは一見ヤンキーとか極道の様な見た目で、幸さんとはまた違う威圧感があるが、実際は人思いの素晴らしい方だ。
なんでも自宅の庭でバーベキューをするということで、窓から庭を見れば大勢の人たちがわいわいと楽しそうにしている。
まぁ自分が呼ばれたのは、単純にバーベキューを楽しむためではないのだけれど。
「あばーっ、ぶぅー」
「はいはい。よちよちですねー」
おれの腕の中には愛らしい赤ちゃんがいた。
お父さんに似たのか少し強面な感じが出てるものの、流石は赤ちゃん。
ぷくぷくしていて、つい口元が緩んでしまう可愛らしさだ。
この子は花ちゃん。
恭弥さんの娘さんで、来月1歳になるのだとか。
この子はかなりの元気っ子でいつもは四六時中泣いているらしいのだが、何故かおれが抱っこすると瞬間的に泣き止む。
理由は不明だが、それが判明してからよく利用されることが増えた。
今回もお守り役として呼ばれた感じなのだ。
相変わらず人使いが荒い。
まぁはしゃぐのは苦手だし断然インドアだから、特に不満もなくこうして室内で大人しく赤ちゃんと遊んでいる。
「千里ー!!」
「!」
その時大声で名前を呼ばれ、振り返れば小学生の男の子がこちらへと駆けてきた。
この子も恭弥さんの息子さんだ。
名前は太陽くん。
この子もおれには懐いてくれていて、
出会った時の第一声で「オレのお嫁さんになって!」と言われた時にはびっくりした(恭弥さんは死ぬほど笑ってた)。
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