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すれ違い5
「こんなとこで会えるなんてスゲー嬉しいっす!一緒してもいいですかっ?」
「あ、うん。どうぞどうぞ」
「あー俺は向こう行ってくるから、いっぱい食べて大きくなれよー」
そう言っておれの頭をポンポンと叩き、恭弥さんは行ってしまった。
自分がチビなのは気にしていることなので、少しムッとして頬を膨らます。
すると隣で広瀬くんがクスクスと笑っていた。
その笑みは年相応に無邪気で子供っぽく、なんだかとても楽しそうだ。
「どうかした?」
「いや、雪永さんが可愛いから、つい」
「?」
よく意味が分からずに首を傾げる。
おれ、何かしただろうか。
それからお肉を食べながら広瀬くんとお喋りをしていた。
彼は話すのが上手で全く退屈しないけれど、どこか落ち着かない浮ついた自分がいる。
未だもやもやが晴れない。
あれ以来、幸さんに連絡できてないし。
いくらなんでも、あんな別れ方なかったよな。
押しつけられた唇の感触が、まだ残っている。
何故だか不快感を感じない自分は、一体なんなのだろうか。
「…雪永さん?」
「っ、あ、うん、なに?」
「……なんか、元気ないですよね?」
「!」
指摘されてしまって驚きと申し訳なさで苦笑いが漏れた。
困るとすぐ笑顔で誤魔化す。
おれの悪い癖。
そんなおれをジッと見つめていた広瀬くんは、パクリとお肉を食べ、徐に話し出した。
「俺。初めて雪永さんの芝居見た時って、いろいろと追い詰められてた時期だったんです」
「え?」
突然の告白に彼の横顔を見上げると、広瀬くんは静かな表情で、記憶を辿るようにどこか遠くを眺めていた。
「なんか。あの時はどんなこともなぁなぁでやってればいいだろーみたいな、軽く考えてた感じがあって。きっとそれが主な原因で、仕事が上手く回らなくなってたんです。
何やっても悪い流れになるというか。何もかもから見放されてる感じ。
もういっそのこと全部ほっぽって逃げ出そうとか自暴自棄で考えたりしてました」
そう言って笑みを浮かべる広瀬くん。
おれはそんなこと知りもしなかったから、ただただぽかんとしてしまう。
すると不意に彼の視線がこちらに向けられた。
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