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すれ違い6
「そんな時見たドラマで、雪永さんの芝居を見ました。多分、雪永さんにとっても初めてのドラマ」
「え?…あ、もしかして高校生役の?」
「そうそう。主人公の親友の男の子っ」
楽しそうに話され、一気に記憶が蘇る。
あれは確かに初めてのドラマだった。
よく分からないまま受けたオーディションで選んでもらえて、まるで別世界のような環境の中で撮影した。
今はもう慣れたけど、向けられるカメラとか、大勢のスタッフさんとか。
とにかく現実感がしなくて終始ふわふわしてたな。
「俺、それ見てハッとしたんです。主人公との言い合いのシーンとか、見ててゾクゾクしました。あぁ、これが芝居かって」
「そ、そうかな。おれ、いっぱいいっぱいだったと思うんだけど…」
ストレートに褒められてモニョモニョと言葉を返す。
別に褒められることなんて何もない。
芝居は街中でスカウトされて、なんとなくで始めただけだ。
自分じゃない誰かになりたくて、いっそ消し去ってしまいたくて。
そんな自分勝手な思いが原動力の薄っぺらい芝居。
でも、最近は少し変わって来た気もする。
芝居をするとこが、楽しいのだ。
広瀬くんや間瀬さん、そして幸さんたちと掛け合いをすることが。
みんなすごく上手くて、その勢いに負けないように、必死で脚本と向き合う。
幸さんは次、どんな言葉を返してくる?
どんな視線、どんな距離感、どんな思いで…
引き離されるな、食らいつけ。
彼の芝居に、ついて行くんだ。
そういう気持ちにさせられていくのが分かる。
「雪永さんは、人の心に届く芝居をする。それって、芝居そのものが好きじゃないとできないですよ」
「っ、…広瀬くん」
「だからってわけでもないすけど、元気出してください!今度の雪永さんとの掛け合い、楽しみにしてるんでっ」
彼の笑顔が眩しい。
真っ直ぐに向けられる思いに、つい目を細めてしまう。
「…なんで、君はそこまでおれに?」
「え?…うーん。単純に、雪永さんには笑ってて欲しいから?」
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