53 / 108

すれ違い6

「そんな時見たドラマで、雪永さんの芝居を見ました。多分、雪永さんにとっても初めてのドラマ」 「え?…あ、もしかして高校生役の?」 「そうそう。主人公の親友の男の子っ」 楽しそうに話され、一気に記憶が蘇る。 あれは確かに初めてのドラマだった。 よく分からないまま受けたオーディションで選んでもらえて、まるで別世界のような環境の中で撮影した。 今はもう慣れたけど、向けられるカメラとか、大勢のスタッフさんとか。 とにかく現実感がしなくて終始ふわふわしてたな。 「俺、それ見てハッとしたんです。主人公との言い合いのシーンとか、見ててゾクゾクしました。あぁ、これが芝居かって」 「そ、そうかな。おれ、いっぱいいっぱいだったと思うんだけど…」 ストレートに褒められてモニョモニョと言葉を返す。 別に褒められることなんて何もない。 芝居は街中でスカウトされて、なんとなくで始めただけだ。 自分じゃない誰かになりたくて、いっそ消し去ってしまいたくて。 そんな自分勝手な思いが原動力の薄っぺらい芝居。 でも、最近は少し変わって来た気もする。 芝居をするとこが、楽しいのだ。 広瀬くんや間瀬さん、そして幸さんたちと掛け合いをすることが。 みんなすごく上手くて、その勢いに負けないように、必死で脚本と向き合う。 幸さんは次、どんな言葉を返してくる? どんな視線、どんな距離感、どんな思いで… 引き離されるな、食らいつけ。 彼の芝居に、ついて行くんだ。 そういう気持ちにさせられていくのが分かる。 「雪永さんは、人の心に届く芝居をする。それって、芝居そのものが好きじゃないとできないですよ」 「っ、…広瀬くん」 「だからってわけでもないすけど、元気出してください!今度の雪永さんとの掛け合い、楽しみにしてるんでっ」 彼の笑顔が眩しい。 真っ直ぐに向けられる思いに、つい目を細めてしまう。 「…なんで、君はそこまでおれに?」 「え?…うーん。単純に、雪永さんには笑ってて欲しいから?」

ともだちにシェアしよう!