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すれ違い9
電車にゆらゆら揺られながら外の景色をボーッと眺める。
なんだか外の雲行きが怪しくなってきた。
夜は嵐だっけ。
帰るまで雨降らないといいな。
「あ。見て見て〜。雪永くん赤ちゃん抱っこしてる〜っ」
「!?」
いきなり名前を呼ばれてビクッとなった。
チラリと見れば女子高校生が2人、携帯を見てはしゃいでいる。
「あ、これ斎賀恭弥のインスタっ?きゃー、マジかわいい〜!」
「ほんと癒しだわぁ。ドラマ見てる?片岡幸とのっ」
「ゆきゆきコンビね!見てる見てる〜!」
……なんか、すごく居づらいなぁ。
なんとなく被っていた帽子をもう少し深く被る。
びっくりびっくり…。
いきなり名前呼ばれたから、ドキッとしてしまった。
そんなこんなしていたら、最寄りの駅に到着した。
ふらふらと電車を降り、改札を通る。
ずっと心ここに在らずな感じだ。
なんだか、色々どうしたらいいのか分からない。
この前久しぶりにあった彼、須藤さんからの連絡はまだだ。
でもきっとくるんだろうな。どうしよう。
幸さんのことも、きっとこのままじゃいけない。
話し合わずに勝手に遠ざけることはとても恐ろしいことだって、
おれは痛いほど知っているから。
『あの人と…、片岡さんと、幸せになってもらいたい…』
駿くんには悪いけれど。
幸せになる権利なんて、おれにはない。
「……悠斗 さん」
おれは、どうすればいい?
もう、分からないよ…。
真っ暗で、何も見えない。
あの頃から、おれは何も変われないまま。
一歩も踏み出せないまま……
「千里!」
「…っ」
声が、聞こえた。
悠斗、さん…?
いや、違う。
そんなわけあるはずない。
なら、誰…?
「──幸、さん…?」
名前を呟き、瞠目する。
視界の先にいた人物に、おれは呆然と立ち尽くしていた。
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