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すれ違い10

「な、なんで幸さんがここにっ?」 動揺してあわあわと声をかける。 でもなんだか、彼の様子がおかしい。 どこか辛そうで、顔色も悪い気がする。 「あ、あの、大丈夫ですか…?」 「……腹、が…」 「え?」 お腹? 言われて幸さんがお腹を押さえていることに気がつく。 え。あ。もしかして、腹痛? 「だ、大丈夫ですかっ?と、トイレ行きますっ?」 「いや…。そういう、痛み…でもなぃ…」 「じゃ、じゃあ、駅員さん、呼んで…っ」 「千里の…」 「え?」 呼びに行こうとしたおれの手首を掴み、幸さんが弱々しい声で言う。 振り返ると目があった。 辛そうにしながらも、彼が言葉を続ける。 「千里の家に…連れて行って、くれないか…?」 「お、おれの?」 「ここから…近い、だろ…。タクシー代は、払う、から…」 「で、でも。大丈夫ですか…?」 怠そうに頷かれる。 それに少し考えたが、このままでは周囲から注目されてしまう。 駅で休みたくないのも、きっと落ち着いて休めないからだろう。 駅員さんに片岡幸だとバレたら、居心地は悪いと思うし。 「わ、分かりました…っ。こっちです…!」 よしっと気を取り直して彼を支えながらタクシー乗り場へと向かう。 あまりのハプニングに、彼との気まずさを感じる余裕すらなかった。 「つ、着きましたよ…!大丈夫ですか…!?」 「……」 「む、無反応…!?気をしっかり持ってください…!!」 ドタバタと部屋に転がり込み、ソファーに幸さんを横にする。 えっと、どうすればいいんだろう。 やっぱり病院行った方がいいのでは? 薬とか、おれの家あまりないし…。 「千里、すまない」 「…へ?」 声をかけられ振り返れば、幸さんがスクッと立ち上がった。 さっきまでの苦しそうな彼はどこへやら、いつも通りの幸さんがそこにはいる。 それにポカンとしていれば、彼は申し訳なさそうにこちらを見つめた。

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