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すれ違い11
「だ、騙したんですか!?なんで!?」
「…悪い。なんだか、どう顔を合わせていいのか分からなくて…」
「だからってこんなとこで演技力発揮しないでください!」
「心配したんですから!」と顔を赤らめた千里がポカポカと俺を叩いてくる。
なんだこれ、かわいいな。
広瀬のやつに急かされてやって来た駅。
来たはいいものの何をどうすればいいのか分からないうちに千里が来てしまい、咄嗟にあんな三文芝居をしてしまった(千里は騙されてくれたけれど)。
でも今こうして彼の部屋にも来れているし、悔しいがあのガキには感謝だな。
「…悪い。どうしてもちゃんと話したかったんだ。でも、切り出し方が分からなかった…」
こんな誰かに必死で何かを伝えようとしたことなんてない。
だからやり方なんて分からないし、分かろうともしてこなかった。
でも今は、ちゃんと理解したい。
千里の抱えていること。
それに、これまでのことも。
こんなことを感じるのは初めてだ。
全部、千里だけだ。
「あの、おれも…っ」
「!」
「おれも…、あの、思ってました…っ。ちゃんと話さなきゃって…。このままなのは、その、よくないと、思うから…」
そうオロオロしながらも、必死で俺に伝えてくる千里。
そんな彼の言葉を、俺は黙って聞いていた。
途切れ途切れでも、口籠ってもいい。
千里の本心が、何よりも聞きたい。
「あの、おれ…っ」
そう千里が何かを言おうとした時
ピカッと、外が一瞬光った。
そして次には地響きのような音が起こる。
「雷か」
そう呟けばまた一瞬外が光る。
今日は嵐だと言っていたし、仕方ないか。
というか前もこんな嵐になったことがあったな。
などと思いながらチラリと千里を見て、「ん?」と首を傾げた。
「千里。なんか、顔が青ざめてないか?」
「……い、いえ。別にそんなこと…」
そこまで言った時、先程の雷の音が遅れてやってくる。
すると千里はあからさまに体をビクつかせ、目に見えて怯えていた。
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