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すれ違い12

「……雷、怖いのか」 「……」 否定する余裕もないのか、捨て犬のように体を縮めてビクビクしている。 そんな様子を眺めていた幸は、やがて意地悪い笑みを浮かべて両手を広げた。 「ひっつくか?」 「えっ」 半分冗談、半分本気で言うと、千里は目をパチクリとさせる。 そしてしばらく百面相を繰り広げていたが、また雷の音がしてヒィッと悲鳴を上げた。 「ほら、千里」 「……うぅー…っ」 唸りながらそろそろとこちらへやって来る。 そして躊躇いながらも俺の腕の中に入り込んできた。 すっぽりと収まった千里の体は暖かい。 それにほんのりとハーブの香りがする。 それに愛おしさが込み上げて胸が締め付けられた。 「案外、怖がりなんだな」 「っ、そ、そんなこと…!苦手なのは雷と鳥だけです!」 「鳥?」 唐突な単語に首を傾げると、またゴロゴロと鳴って千里が「ビャッ」とおかしな悲鳴を上げしがみ付いてくる。 けれどすぐ我に返った千里は、慌ててその手を離してしまった。 「…なぁ。なんでそんなに、怖がってる?」 「む、昔からその2つだけはダメなんです…!」 「いや、そうじゃなくて。……誰かに心を開くことを」 「…っ」 弾かれたように見上げられ、視線が交わる。 綺麗なガラス玉のような瞳を見つめ、できるだけ穏やかに言葉を続けた。 「前言ってたよな。自分には、愛する資格がないって」 「!」 「その意味。俺に教えてくれないか?」 見つめあった千里の瞳が揺れる。 いつも千里が誰に対しても引いている一線。 それを今、俺は踏み越えようとしている。 「……分かりました。話します。おれの、これまでのこと」 「!」 「話し合うなら、まず打ち明けないと始まらない、ですよね」 そう言った千里の手は、少し震えていた。 俺は咄嗟にその手を取り、両手で握りしめる。 驚いたようにこちらを見上げる千里に、幸は優しく微笑んだ。 「焦らず、ゆっくりでいい。大丈夫だ」 そう言うと、千里は強張っていた顔を少し緩め、笑ってくれた。 ソファーに促して、2人で座る。 手は片方で繋いだまま、俺はジッと千里の言葉を待った。

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