60 / 108
愛しい人
「どうしたの?」
顔を上げれば、そこには心配げにこちらを見下ろす中学生がいた。
小学生の頃、おれはよく周りの男子から女みたいだと揶揄われ、いじめられていた。
ほんとに男なのかよとズボンを脱がされたり、髪を引っ張られたり。
小心者のおれは、いつも泣きべそをかいていた。
放課後、いつも1人で公園のベンチに座る。
泣き止むまでここで蹲って、落ち着いてから家に帰るのだ。
おれの家は母子家庭で、母さんが女手一つで育ててくれていた。
だから無駄な心配はかけたくなかったし、男のくせにこんなのは情けないというなけなしのプライドもあった。
でもやっぱり辛くて、涙がポロポロ止まらない。
なんで自分はこんなに泣き虫なのだろう。
なんで自分はこんなに女顔なのだろう。
学校に、行きたくないなぁ…。
そう心の中で呟いた時、彼に声をかけられた。
知らないお兄さんにポカンとしていると、彼は鞄からタオルを取り出して差し出してくる。
「これで顔拭きなっ。まだ使ってないから!」
そう言われてもまだ唖然としているおれを見て、お兄さんは困り顔を浮かべた。
すると今度は何かを思いついたような顔をして、ゴソゴソと鞄の中を漁り出す。
「あ、あった!はいこれ!」
「?」
次に差し出されたのはスライムのような丸いおもちゃだった。
「ここ、押してみな」
「…ここ?」
言われてなんとなくそこをグニっと押してみる。
すると次には、ベロンッとスライムの中から目玉が飛び出して来た。
「ヒッ」
それに驚いたおれは更に泣き出してしまった。
今思えば、そのおもちゃでおれを笑わせようとしてくれたんだろう。
でもおれはわんわん泣いて、お兄さんはあわふたと慌てていた。
それがおれとお兄さん、悠斗 さんとの最初の出会いだった。
ともだちにシェアしよう!