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愛しい人9

「癌!?」 「うん…。すぐに、手術が必要だって…」 連絡のないおれを心配して、家まで会いに来てくれた悠斗さんが驚愕する。 それにおれは力ない声で返事をした。 あれから病院に搬送され、おれは診察室へと通された。 学ラン姿のおれを見て、医者の男性は困ったように尋ねてくる。 「他にご家族の方はいないのかい?」 「いません。うちは母子家庭なので」 「じゃあ、親戚の方は?」 「……今、母さんの側にいられるのは、おれだけです」 親戚はいるにはいた。 でも殆ど絶縁状態らしく、連絡先どころか、顔すらもおれは知らない。 なんでも父親と結婚する際にいろいろあったそうだ。 絶縁してまで母さんは父を愛したのに、当の本人は他の女性と浮気をし、家を出て行ったらしい。 はっきり答えるおれに、医者は少しの間黙り込み、母さんの容体について話した。 「どうしよう。母さんが…母さんが…っ」 両手で顔を覆い、体を震わせる。 もし母さんが死んでしまったら…。 そんなことを考えるだけで気が狂いそうだった。 いつも優しく笑いかけてくれた母さん。 どれだけ疲れていても、決して表には出さず微笑んでいた。 おれはその優しさに縋って、母さんが倒れるまで何も気付けずに…。 「おれのせいだ…っ。おれのせいで、母さんが…っ」 「千里…」 激しく動揺している千里の肩に、悠斗は両手をそっと乗せた。 「千里、大丈夫だ。お前の母さんは、きっと助かるよ。だから…」 「きっと…?」 悠斗の慰めの声に、千里が顔を上げた。 涙を流すその両目で、悠斗を睨み付ける。 「きっとなんて…っ、何の保証もないのに、勝手なこと言わないで…!」 「わ、悪い…。でも俺は…」 「悠斗さんに何が分かるんだよ!!」

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