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愛しい人11
母さんの手術は成功した。
一命を取り留めたと聞いた時、この上なく嬉しいはずなのに、おれは心ここにあらずで
ただただ呆然としていた。
『悠斗さんに何が分かるんだよ!!』
それが、あの人へ向けた最後の言葉。
涙が出る余裕もありはしなかった。
悠斗さん。悠斗さん。
どれだけ呼んでも、もう応えてくれる彼はいない。
どこにも、いない。
それからおれは、まるで何かに縋り付くようにハーブを調べた。
でもどれだけ飲んでも、味が分からなくて、あの時のハーブティーと、全然違う。
自分が心底憎らしい。
人殺しの自分が、憎くて憎くて堪らない。
あの時、助けられずにおれが死んでしまえばよかったんだ。
なのに、なんでおれは今、ここにいるんだろう。
トボトボと病院からの帰り道、暗くなった道を歩いていく。
大きな病院があるだけに、家から離れたこの辺りは随分都会だ。
人が行き交う道で俯いて歩いると、誰かにぶつかり、身体がよろめく。
「っ、すみません…」
相手の顔もろくに見ず、謝罪をして再び歩き出そうとすると、相手に腕を掴まれた。
その時初めて顔を上げる。
目の前の長身の男性は、高そうなスーツを着て、整った顔立ちをしていた。
相手はジッとおれを見下ろしていた。
いつもだったら怯えていただろうが、今のおれはまともな考えができなくて、ただぼんやりと彼を見上げる。
男性は唐突に口を開いた。
おれをグッと引き寄せ、耳元で囁く。
「お前、男もいける口か?」
「ぇ」
何を言われたのか、理解が遅れた。
固まるおれに、彼は静かに告げる。
「すぐそこに借りているホテルがある。一晩どうだ?金なら払うぞ」
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