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残滓4
連れてこられた高層マンションに、一体須藤さんは何者なのかと何度も抱いてきた疑問が浮上する。
おれは彼のことを何も知らない。
彼は話さないし、おれも聞こうとしてこなかったから。
「須藤さん…、ほんとに、おれ、もう…」
「嫌かどうかは、体に聞こうか?」
「…っ、ぃ、や…っ」
寝室に引きずられていき、ベッドに押し倒される。
久しぶりの感覚に、体がすくんだ。
「あの時はよく、他の男の名前を呼んでたな。今度は片岡幸の名前でも呼ぶのか?」
「っ、幸さんは、なにも、関係ないです…っ」
「関係ない?少なくとも、向こうは気があるようだが?」
「…っ、ん、ぁっ」
耳元で囁かれ、体を弄られる。
身を捩るが押さえ付けられ、首筋に舌が這わされた。
こんなことに熱くなる体に悔しくなる。
求めてなんかいないのに。
気持ち良くなんて、ないのに。
ズボンに手が伸び、カチャカチャとベルトを外そうとする。
咄嗟にその手を掴めば、首筋に顔を埋めていた彼が、こちらに視線を向ける。
「千里。なんだ?この手は」
「っ、…す、須藤さん。あの、話を…」
「この手はなんだと聞いてる。抵抗したらどういう目にあうか、忘れたか?」
「…っ」
蘇る記憶に体が強張った。
昔、何度か無意識に拒絶してしまったことがあり、
その度に“躾け”をされた。
思い出したくもない醜態に青ざめる。
ブンブンと首を振れば、須藤さんはその目を細める。
「なら、服を脱げ」
「…っ」
「1枚ずつ、ゆっくり、下着まで全部」
「……」
彼は一度決めたことは、どうしたって譲らない。
それはもう、あの数年間で痛いほど知っていた。
きっとこのまま話をしようとしても、ろくに耳を貸してくれない。
震える手でシャツのボタンに手をかける。
1つ2つと外していくのを、須藤さんは僅かに口角を上げ、ジッと見つめていた。
惨めだった。
結局何もできない自分が。
他人に体を開こうとしている自分が。
こんな姿、誰にも知られたくない。
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