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残滓7

「また連絡する」 それだけ言って駅に返されたおれは、ふらふらと改札を通った。 彼は忠告も何もしない。 それはおれが、誰も頼らないことを知っているから。 そして抵抗もできないことも。 おれは過去の、悠斗さんとの思い出を、須藤さんが公にすることを恐れているのだ。 もちろん細かいことは知らないだろう。 けれどおれが恋人を死なせてしまっていることは、いつの日か知られてしまっている。 この大切な思い出を、めちゃくちゃにされたくない。 その恐怖から、おれは彼に逆らえない。 痛む体を引きずって、電車に乗る。 ぼんやりして、怠くて仕方ない。 最寄駅につき、家までの道をのろのろと歩いた。 家の鍵を開け、覚束無い足取りで中に入り、何もする気が起きなくて寝室に向かう。 ベッドに座り、壁に凭れかかった。 コツン、コツンと額を壁にぶつける。 苛立って、心細くて、泣きわめいて暴れだしそうだった。 その時、ふと耳に入った微かな音に我に返る。 「……携帯」 また須藤さんかな…。 ベッドを降りて携帯を取る。 そして液晶を見た千里は瞠目した。 「幸、さん…?」 少し躊躇いながら、恐る恐る緑のボタンを押した。 耳にあて、「もしもし」と言おうとした途端… 『大丈夫か!?』 そう彼にしては珍しく切羽詰まったような声が聞こえ、目をパチクリさせる。 それに開口一番に大丈夫かと聞かれ、どう返せばいいものか…。

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