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さよなら

「なんで隠そうとする。なんで俺を頼ってくれない?」 「っ、別に、本当に何もないんです…っ」 詰め寄る幸に、千里は顔を背けて後ずさる。 しかし素早く幸が彼の腕を掴み、引き止めた。 「俺が、君の嘘が分からないとでも思っているのかっ?」 「……なんでっ、なんでそこまでおれに関わるんですか!?」 掴まれた腕を振り払い、千里は叫んだ。 苦しそうに眉を寄せて、目には涙を浮かべる。 そんな彼をジッと見つめていた幸は、やがて静かに答えた。 「……好きだから」 「……え?」 「俺が、君を好きだから」 「…!」 「だから頼む。君の力にならせてくれ。俺に、君を守らせてくれ」 真っ直ぐに見つめ、告げられた想い。 その言葉に、千里は一筋の涙を溢した。 「………奥村、さん」 「はいカットー!!」 監督の言葉に一気に周りが賑やかになる。 ドラマのワンシーンが終了し、これが最後の場面だった千里はどっと疲れを感じていた。 し、心臓に悪い脚本だった…。 そう心の中で溜息を吐く。 「さっすが雪永さん!自然な涙の演技、最高でした!」 「あ、はは。ありがとう…」 興奮気味の駿に引きつった笑みを浮かべる。 正直、まともに幸さんを見ることができない…。 「お疲れ、雪永くん」 「っ、あ、間瀬さん」 顔を向ければ、笑顔を浮かべる間瀬さんがいた。 最近は別のドラマでも共演する機会があって、偶にご飯にも誘ってくれる。 頼れるお兄さんといった印象の彼は、「いい演技だったよ〜。すっかり見いちゃった」とおれの頭をガシガシ撫でた。 「ね。ちょっと付き合ってくれない?すぐ終わるからさ」 「え?あ、はい」 「間瀬さんずるい!俺も雪永さんと話したいっす!」 「ごめんごめん。すぐ終わるから、広瀬はここでステイ」 「えーっ」 駿くんも間瀬さんの前ではすっかり子供モードだ。 幸さんの前では相変わらず強がっているけど。 この前なんてブラックコーヒー飲んで苦しんでたっけ。 「じゃあ雪永くん。こっち」 「はい」 そうしておれは間瀬さんに連れられて、スタジオを後にした。

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