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さよなら4
「おい、千里」
「…っ」
仕事が終わり、車を出してくれようとしたマネージャーの武田さんに断りを入れてから外に出た時。
不意に名を呼ばれて振り返る。
そこには真っ直ぐにおれを見つめる彼の姿。
「どこに行く?」
「幸、さん…」
その様子から、なんとなく勘付かれている気がした。
でも、だからって答えられない。
これ以上、惨めな自分を見せたくない。
「行くな」
それに無言で首を横に振る。
嬉しかった。
過去を打ち明けても受け入れてくれたことが。
でも、だからこそ、もう巻き込みたくない。
「だめ、なんです…。おれが終わらせなきゃ。これは、おれの責任だから…」
そうして俯くと、視界に自分とは別の靴が入り込んできた。
弾かれたように顔を上げる。
次には、幸さんに両腕を回され、抱き締められていた。
「──好きだ」
「!」
静かに告げられた言葉。
それに千里は目を見開く。
「好きだから、力になりたい。千里に、笑っていて欲しい」
「幸、さん…」
「もう、我慢しなくていいんだ。1人で全て、背負い込まなくていいんだ」
「…っ」
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