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さよなら5
自分がどうしようもなく憎いと思った。
何度も、消えてしまいたいと思った。
それでもここまで、醜く抗い続けていたのは、一体何のためだったのだろう。
『でも忘れないで。雪永くんには、必死で手を差し伸べてるやつがいること』
先程の間瀬さんの言葉が蘇る。
胸のあたりが、苦しいくらいに締め付けられた。
「なん、で…」
こんな風に、優しくしないでほしい。
またあの人を、思い出してしまうから。
目を閉じれば、いつでもあなたがいるんだ。
優しく微笑んでくれたあなたが。
ハーブティーを淹れてくれたあなたが。
ぎゅっと手を握ってくれたあなたが。
もう二度と、その声を聞けないの?
抱きしめてもらえないの?
笑い合うことができないの?
おれの名前を、もう、呼んでくれないの…?
「──千里」
「…っ」
顔を上げれば、目の前の幸さんが微笑んでいた。
そしてもう一度、名前を呼ばれる。
その瞬間、ボロボロと涙が溢れ出した。
そんなおれの頬に手を添えて、幸さんは言う。
俺がいるから。
側にいるから。
「…好きだ。千里」
「っ、う…っ。あ、あぁぁあ、ぁあ…っ」
あぁ。こんなおれを、あなたは許してくれますか。
新しい、好きな人ができたおれを
あなたは…。
頭の中に、微笑む悠斗さんの姿が浮かんだ。
彼はあの時の優しい声で、おれの問いに答える。
『俺の幸せは、千里が幸せでいることだよ』
「ああぁぁっ、…うっ、あ、あぁぁ…っ」
気付けば幸さんに縋り付いて、子供みたいにわんわん号泣していた。
まるで今までの全てを吐き出すように。
背き続けいた感情を、受け入れるように。
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