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踏み出す

西改札口を出た人通りの少ない道で、須藤は千里の姿を確認すると車から降りた。 1人でやってきた千里に笑みを浮かべる。 なんだかんだ言って、あいつだって胸の内では俺を求めているんじゃないか。 千里は誰を頼ることもできない。 最後には俺に縋るしか術がないのだ。 「少し遅かったな。どこで道草を食っていた?」 「……少し、仕事が長引きました」 そう言って歩み寄ってきた千里の腰に手を回す。 引き寄せると、今回は抵抗することなくこちらに身を任せてくる。 それに気を良くした須藤は口角を吊り上げた。 その時。 「千里!」 かけられた声に、千里が弾かれたように顔を向ける。 そこにいたのは、片岡幸本人だった。 息を乱す幸は、余裕のないままに口を開く。 「なんでだ…、なんで頼ってくれない?俺は、君を…」 「だから…っ、これはおれの問題なんです…!幸さんに迷惑はかけたくない…っ」 苦し気に言葉を返す千里に、幸はくしゃりと顔を歪めた。 その光景を眺めていた須藤は、心底愉快そうに笑みを浮かべる。 腰に手を回していた千里をさらに抱き寄せて、挑発をするように幸へ言葉を投げた。 「お呼びじゃないみたいだけど?厚かましい男は嫌われるぜ」 「っ、お前には言われたくないな」 「俺?俺はこうして求められているだろう。ほら、さっさと帰ったらどうだ。有名俳優さん」 「……」 黙り込んだ幸は、やがて大きな溜息を吐き、背を向ける。 「なら、もう知らん。勝手にすればいい」 「…っ」 「邪魔したな」

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