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踏み出す3
「これはどういうことだ?」
低い声が静かな駐車場に響く。
立ち止まった須藤は、その鋭い目で前方にいる人物たちを睨み付けた。
それに特に動じる様子もなく、須藤に向かい合う幸、樹、駿の3人。
明らかに待ち伏せをしていた彼らに、須藤は眉を寄せる。
「なんだ、このメンツは…。芸能人が3人も、俺になんの用だ」
「あなたの後ろにいる雪永くんも、立派な芸能人ですけどね」
そう言って笑みを浮かべる樹に、須藤はさらに表情を険しくする。
「用件は、千里のことか」
「当たり前でしょ。それ以外でおっさんなんかに興味ないから」
「っ、なんだと…」
「こらこら。余計な挑発はしない」
樹が注意すると、駿はぶすっと拗ねた顔でなおも須藤を睨み付けていた。
そんな中、黙り込んでいた幸が一歩前に出る。
先ほど会ったときのような余裕のなさは微塵も感じられないほど、ひどく落ち着いた様子の彼に、須藤は内心困惑した。
何か、嫌な予感がする。
自分が大きな過ちを犯したような、そんな予感が。
「アンタが千里を車に乗せるところまで、何枚か写真を撮らせてもらった」
「!」
「こういうの、バレると困るんじゃないか?特に、奥さんに、とか」
「…こいつッ」
知ってるということは、千里が話したのだ。
つまり完全にはめられた。
苛立ちが奥底の方から込み上げてくる。
「…そんなもの、どうとでも説明はつくだろ。証拠になんてならない」
「じゃあこれは?」
「…は?」
『結婚はしているが、あいつとは形だけだ。愛情なんて持ち合わせていない』
『でも、向こうは違いますよね…?』
『まぁ…。でも俺はあんな女に興味なんてない。実家が金持ちなだけの世間知らずなやつだ』
流れた音声に、須藤は絶句した。
音の発信源は後ろからだ。
ゆっくりと振り返ると、携帯を持った千里が立っている。
「……あれを、録音していたのか?」
「……すみません」
「っ、こんなのが世間に知れたら、お前だってただじゃ済まないぞッ!」
「覚悟はできてます。あなたが法廷でも何でも争うつもりなら、ですけど」
「…ッッ」
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