87 / 108

踏み出す3

「これはどういうことだ?」 低い声が静かな駐車場に響く。 立ち止まった須藤は、その鋭い目で前方にいる人物たちを睨み付けた。 それに特に動じる様子もなく、須藤に向かい合う幸、樹、駿の3人。 明らかに待ち伏せをしていた彼らに、須藤は眉を寄せる。 「なんだ、このメンツは…。芸能人が3人も、俺になんの用だ」 「あなたの後ろにいる雪永くんも、立派な芸能人ですけどね」 そう言って笑みを浮かべる樹に、須藤はさらに表情を険しくする。 「用件は、千里のことか」 「当たり前でしょ。それ以外でおっさんなんかに興味ないから」 「っ、なんだと…」 「こらこら。余計な挑発はしない」 樹が注意すると、駿はぶすっと拗ねた顔でなおも須藤を睨み付けていた。 そんな中、黙り込んでいた幸が一歩前に出る。 先ほど会ったときのような余裕のなさは微塵も感じられないほど、ひどく落ち着いた様子の彼に、須藤は内心困惑した。 何か、嫌な予感がする。 自分が大きな過ちを犯したような、そんな予感が。 「アンタが千里を車に乗せるところまで、何枚か写真を撮らせてもらった」 「!」 「こういうの、バレると困るんじゃないか?特に、奥さんに、とか」 「…こいつッ」 知ってるということは、千里が話したのだ。 つまり完全にはめられた。 苛立ちが奥底の方から込み上げてくる。 「…そんなもの、どうとでも説明はつくだろ。証拠になんてならない」 「じゃあこれは?」 「…は?」 『結婚はしているが、あいつとは形だけだ。愛情なんて持ち合わせていない』 『でも、向こうは違いますよね…?』 『まぁ…。でも俺はあんな女に興味なんてない。実家が金持ちなだけの世間知らずなやつだ』 流れた音声に、須藤は絶句した。 音の発信源は後ろからだ。 ゆっくりと振り返ると、携帯を持った千里が立っている。 「……あれを、録音していたのか?」 「……すみません」 「っ、こんなのが世間に知れたら、お前だってただじゃ済まないぞッ!」 「覚悟はできてます。あなたが法廷でも何でも争うつもりなら、ですけど」 「…ッッ」

ともだちにシェアしよう!