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踏み出す4

「アンタだって同じだろ?周囲にバレたらかなりまずい。奥さんはもちろん、親戚、会社で良からぬ噂が立つかもな」 「…俺を脅しているのか」 「散々雪永さん脅してきてよく言うよ。今回はおっさんが手を引けばそれでいいって言ってんだよ?めっちゃ譲歩してんじゃん」 樹と駿の言葉にどんどんと苛立ちが膨れ上がる。 「アンタの弱みは掴んだ。千里の過去を利用して、千里を縛りつけることはもうできない。しかもアンタ、未成年だった千里を誘ったんだろ。立派な犯罪じゃないか」 「え…、まじ?」 「なにそれ聞いてない!」 幸の発言に驚愕する2人。 俯き黙り込んでいた須藤は、次には静かに笑い始めた。 そしてバッと顔を上げて、大声で叫び散らす。 「犯罪だって?逆に感謝して欲しいもんだ!俺は魂抜けたみたいなツラした千里を慰めてやったんだよ!!コイツは最高だぜ?顔は上等だし、体は柔けぇし、肌は吸い付くみたいだし!挿れた時とかスゲェイイんだよ!それに千里の善がる姿なんて…」 「やめて下さい!!」 駐車場に響いた怒声に、一瞬あたりが静まり返った。 その声を放った千里は、彼本人とは思えないほどの恐ろしい形相で須藤を睨みつける。 それに怯んだ須藤だったが、次にはやけくそになりながら千里に掴みかかろうとした。 「よくもっ…よくも俺を騙してくれたなぁあ!!」 「千里!!」 叫んだ幸は須藤を止めようとするが間に合わない。 樹や駿も距離があった。 千里へと突っ込んでいく須藤。 そんな相手に対して千里は 渾身の回し蹴りを叩き込んでいた。 吹き飛ぶ須藤に、幸たちは目を点にする。 そして地面に転がった須藤を見下ろして、千里は静かに言い放った。 「いい加減にしろ」 低く冷め切った声に、その場にいた全員が恐怖する。 次に千里があわあわと慌て出すまで、周りはピクリとも動き出せずにいるのだった。

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