90 / 108
踏み出す6
「結局最後にケリをつけたのは千里だったな」
「お恥ずかしいところを、お見せしました…」
間瀬さんと駿くんと別れた後、おれは幸さんの車に乗せてもらっていた。
まだ頭がボーッとしている。
なんだか現実感がなくて、どこか上の空な感覚が続いていた。
これで、終わったのかな。
夜景をぼんやりと眺めながら思う。
過去から逃げたいとは思わない。
これは紛れもないおれの罪で、一生背負っていかなくちゃならないものだ。
それに、おれにとっての過去は、決して辛いだけのものではない。
とても大切で、あたたかい思い出がたくさん詰まっている。
それでも、こうして吹っ切らなければならないものもあったのだろう。
幸さんが手を差し伸べてくれて、そのことに初めて気がついた。
「よし、着いたぞ」
「…あ。ありがとうございます…」
気づけばもうおれの家の前で、急いで荷物を持って車を降りようとする。
しかし、体は動こうとしなかった。
静かになった車内で、不思議に思ったのか幸さんが「千里?」とおれの名前を呼ぶ。
そして次には、バッと顔を上げていた。
驚く幸さんに向かって、千里は顔を真っ赤に染めながら口を開く。
「あの、おれ…っ。まだ、幸さん、と…」
「……千里?」
「ぃ、……一緒に、いたぃ、です…」
「!」
幸さんがその目を見開くのが分かった。
恥ずかしくてギュッと目を閉じる。
体がプルプルと震えて、熱くて熱くて仕方ない。
やっぱ、帰った方がよかったかな…。
謝ろうと思ってゆっくりと目を開けて、おれは固まった。
幸さんが、泣きそうな顔で笑っていたのだ。
「……俺の家に、来るか?」
「……は、ぃ」
優しく問われた質問に、おれはこくりと頷いていた。
ともだちにシェアしよう!