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始まり
「幸さん、お疲れ様でした。明日は久しぶりのお休みなので、ゆっくりしてください」
仕事が終わって、松尾の運転する車から外を眺める。
街はすっかり夜の風景で、ここのところ毎日のように遅くまでの仕事が続いていた。
休みなんていつぶりだろうか。
少なくともここ1ヶ月は働きっぱなしだった気がする。
相変わらず忙しい毎日は続いていて、それでも確かに変わったものもあって。
頭の中には最近晴れて恋人同士となれた愛しい人の姿が浮かぶ。
それだけで、だらしなく口元が緩みそうだ。
すると突然携帯が鳴って、見れば間瀬の名前が映っていて、何の用だと眉を寄せる。
「どなたからですか?」
「…間瀬からだ。別に無視してもいいか」
「いけません!友好関係は大切ですよっ」
「…っち」
「え、舌打ち!?」
疲れからくる苛立ちのまま電話に出る。
初めは乱暴に話していた幸だが、少しして声音を変え、手早く話を終えた。
「松尾、頼まれてくれるか」
「え?」
信号が赤になり後ろを振り返ると、幸は先ほどの気怠さは何処へやら、真っ直ぐな視線を松尾に向けていた。
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