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始まり3
千里は酔いが覚めるのが早いらしく、俺の家に入り水を飲ませるとだんだんと冷静になったようだった。
「あの、ほんと、すみませんでした…」
酔っていた時の記憶はあるようで、顔を真っ赤にしながら謝罪をしてくる。
その頬をうりうりすると、千里はパチクリと目を瞬かせた。
そんな愛らしい恋人に微笑みかけて、幸はソファーに置かれた千里の手を包み込む。
「飲んでたってことは、明日仕事は?」
「…ぁ、えと、午後からです」
「そうか。俺は休みだから、何もなかったらデートにでも行きたかったけどな」
「デ…っ!」
あからさまに動揺する姿は見ていて飽きない。
でも取り敢えず風呂に入れてやった方がいいだろう。
そう思い洗面所まで手を引いて連れて行ってやれば、何かを察したのか千里が慌てたように声をかけてきた。
「あ、あのっ、もしかして、幸さん…っ」
「あぁ。俺も一緒に入る」
「えぇっ!?いや、そんな狭いですよ…!」
「大丈夫だ。それにお前目が悪いだろ。
慣れてる風呂ならまだしも、ここは何がどこにあるか分からないだろうし。
前もドタバタ音してるのが聞こえたしな」
「うっ…」
俺を棚と間違えるような視力だ。
もしかしたらシャンプーとボディーソープを間違って使っていた可能性もある。
俺の説明に言葉をつまらせた千里は、しばらく百面相を続けた後、真っ赤な顔を両手で覆った。
「……幸さんって、奥手なのか強引なのか分かりません…」
「周りには強引なやつだとよく言われる。偶に奥手になるとしても……千里にだけだ」
「……」
プシュゥゥ…と湯気を上げそうなほど赤面した千里は、控えめに俺の袖を掴んだ。
おずおずとこちらを見上げ、弱々しい声を出す。
「じゃあ…、その、お願ぃ、します…」
「……」
この可愛さは、反則すぎではないだろうか。
今にも飛びそうになる理性を必死に留めて、俺はその手を取り立ち上がった。
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