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二、さざ波の声④
あなたは、先生ではない。
俺の知っているあなたではない。
よく考えたら分かる事だ。
(先生がここにいる筈ないじゃないか)
今更ながら、自分が生きている事に驚き、ここが捕虜収容所でない事に安堵する。
この人の名は、ゼスカ・ロイウェル
声は似ている。
けれど、肌の色も違う。
目の色も違う。
夕陽
違うな。
朱の明かりは、瞳に蝋燭の火を灯した色をしている。
「君は、海岸に倒れていたよ」
あぁ、そうか。
機体ごと海に流されたんだ。
空母に突っ込んだ後の事は、なにも覚えていない。
気を失って海を漂い漂着した俺は、運が良かった……のだろうか。
いま、生きている事自体が奇跡である。
喜ばなきゃいけない。
なのに、苦しい。
特攻の任務を全うした海軍第12空挺師団は、もういない。
海に向かって飛び、銀翼は折れて、砕かれて……
彼らの……仲間の、友の体は灰になり煙になった。
どこにももういない。
海鳴りが聞こえる。
遠くの波が叫んでいる。
なのに、その人は言うんだ。
(あの人の声で!)
「目覚めて良かった」
なぜッ
良い事なんて何もない。
「俺は」
俺だけが!
「生き残ってしまったんだ」
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