遂に来た。 この時が。 戦争の影響で定期船は止まっている。 しかし、資源に乏しい島だ。 外部との接触を絶って存続する事はできない。 他国との往来する船籍は、不定期だが航行している。 いつ来るかも知れない船だ。 その船が到来する。 俺は約束していた。 次に来る船で、日本に戻る。 いつになるか分からないが、船が来たら、帰還の手配をしてくれ……と。 彼との約束を結んでいた。 「君を帰さない」 「どうしてッ」 今更そんな事を言うんだ。 「何度も言わせるなッ。一度下った命令は覆らない。君には特攻の命令が下る。命を賭けて守ろうとした国に、再び死ねと言われるんだぞ！」 「だからなんだッ」 それが戦争だ。 人を殺さなければ終わらない。 人を殺さなければ大切な人を守れない。 自分が死ななければ、大切な人が死ぬ。 自分が死ねば、大切な人が生き長らえる。 (ほんのわずかでも) 大切な人が生きてくれる。 俺が生き続ければ、違う誰かに特攻の命令が下る。 特攻の命令を受けるのは、あの人かも知れない。 「あの人を生かすために俺が死ぬんだ！」 たかが飛行機が一つ落ちたくらいで、浮沈艦と呼ばれるアメリカ空母が沈まない事くらい分かっている。 しかし。 あなたを生かすためならば。 特攻にも意義がある。 「君は人だろう！」 熱がきつく苦しく、俺を抱く。 彼の体温が熱い。鼓動が侵食する。 両腕がきつく締めつける。 もうどちらがどこまで自分の体なのか、分からない。 「兵器になりたいのか！」 声が心臓を掻きむしる。 「生きたまま人間を突っ込ませて爆死させる人の尊厳を踏みにじる行いは、近代国家にあるまじき蛮行だ」 「あんたはァァァーッ」 何を知っている。 何を分かっている。 何も分かってないくせに。 何も理解してないくせに。 特攻に賛同する者なんて、誰もいない。 (それでも死んでいったんだ) 誰も死にたくなくて。 それでも特攻に意義を見出だそうとして。 己の生きる証を見出だそうとして。 国なんてどうでもいい。 政府など滅べばいい。 国家を守りたいんじゃない。 国から逃れられない運命から、大切な人を守るために。 大切な人を死なせないために。 皆、死んだんだ。 「同志を愚弄するなァァァーッ！！」 ………………ほんとうは、わかっている。 ゼスカは俺達を批判していない。 彼が怒りを向けているのは国家だ。 わかっているのに…… (分かり合えない) 俺を抱きしめる腕が苦しい。 離してくれ。 (あんたとは、もう……) どこで、ほつれてしまったんだろう。 これ以上、関係を壊したくない。 なのに。 現実は残酷だ。 零れ落ちたのは、貝の破片だった。