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三、きっともう戻らない④
彼を突き飛ばした拍子に、懐から落ちたそれは……
小さな貝のカケラが幾つも……
「君を海岸で見つけた時に、周辺に落ちていた。大切な物なのだろうと思って拾い集めたんだ。いつか、復元できればと思って……」
「触るなッ!」
その貝は。
その貝の破片は。
あの人からもらった………
「復元なんてできるわけない」
なのに、そんな簡単に。
「言うなよ」
あんたが触れてはいけない領域だ。
抱きしめる腕を求めちゃいない。
温もりも鼓動も求めてない。
声も、言葉も。なにも要らない。
全部要らない。
不要だらけだ。
要らないから、全部捨てて楽になりたい。
追い求めてなど来ないでくれ。
彼のいない所に早く行きたい。
一緒にいるのが辛すぎて……
出航まで、あとどれくらいだ。
分からないけど。
(今、俺がここを出れば……)
もう彼とは顔を合わせずに済む。
「あんたなんか……」
「君なんか……」
俺達は、この後どんな言葉を紡ごうとしたんだろう。
さようならもなく別れた俺達に、声の行方はわからない。
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