12 / 40
四、宵闇に染まる②
「行くな!」
声が追いかけてくる。波に逆らって。
「行くんじゃない!」
波音を裂いて声が響く。
(誰?)
「勇 !」
(先生!)
ゴボゴボゴボゴボ
肺に水が押し寄せる。
溺れるッ
体が重い。
服が水を吸っている。
苦しい!
寒い!
体が引き摺り込まれる。自由がきかない。声が出ない。酸素が吸えない。息ができない。
ゴボゴボゴボゴボ
(沈むッ)
「大丈夫!大丈夫だ!」
声がこだまする。
頭の裏でこだましている。
「俺がいる!」
「せんせッ」
「俺がいるからッ!大丈夫だ!」
「せん、せェッ」
先生………………
その後の事は覚えていない。
気づいたら、砂浜に寝かされていた。
「せんせい……」
「……ごめんな、先生じゃなくて」
ぼんやりと。白い意識に響いた声は、分かっていた筈なのに。
涙が零れた。
ともだちにシェアしよう!