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五、ハルジオン⑤

結局、俺達は母さんに叱られた。 先生の言い訳があまりに下手くそすぎて、母さんにこってりお説教を食らった。 先生は子どもじゃないし、俺だって一人前だとは言い難いけれど成長してるのに。 「子どもを叱るのは、親の役目だからね」 先生の耳打ちにクスっと笑ってしまったものだから、ますますお説教が長引いてしまった。 結局のところ、俺も先生も、母さんから見ればまだまだ子どもという事だ。 夕飯は俺達の大好物の母さんお手製ちらし寿司で、一口食べて先生が感動していた。 懐かしい。……って、おかわりするから、先生に負けじと俺もおかわりした。 足りない食材を工面して、ご馳走作ってくれて。 母さん。 「ありがとう」 どうしたの、急に改まって。……って、母さんが笑ってたけど、それでいいんだ。 伝えられて良かった。 (今までほんとうにたくさん、ありがとう。母さん。俺を育ててくれて、ありがとう) 先生には、俺の部屋でお泊まりしてもらうんだ。 「ほんとの家族になったみたいだね」 「そんな事を言われると、下心が出てしまうよ」 「えっ……」 ぴしゃん。 襖を閉めた先生の手がすかさず、俺を抱きしめる。 「ずるいよ、君は……」 チュッ おでこに唇が触れた。 「おや?もう茹でダコさんには、ならないのかい」 先生はズルい。 「大人だからズルい……」 「大人の特権だよ」 好きな気持ちを騙すのも。 好きな気持ちを真っ直ぐ伝えるのも。 あなたは、それを『大人の特権』と言うのなら、俺はいつもあなたに振り回されっぱなしで…… 「いいんだね」 ねっとり耳を舐めた唇が、熱い吐息を吹きかけた。 膝の上の拳をぎゅっと握る。 倒れちゃだめだ。 真っ赤になってもだめ。 ピチャン 艶かしい唾液の音が、耳のひだで跳ねる。 「俺を焦らしているのか」 顔が耳まで熱い。 そんなつもり全然なくて、むしろ焦らされているのは俺の方。 「先生に……」 「俺に?」 「つづき、してほしい……」 膝の上でぎゅうっと固めた拳を、先生が包んだ。 大きな手が何度も何度も撫でて、ようやく開いた俺の手をそっと裏返す。 手の甲に、あなたの唇が降りた。 「俺を本気にして……悪い生徒だ」 先生に触れられた場所が、じんじん熱い。 「優しくできないよ。いいね」 俺、天井を見上げている。 天井と俺の間に、先生の顔がある。 (俺、押し倒されたんだ) やっぱり、あなたは嘘つきで「優しくできない」と言ったくせに俺に触れる手つきはひどく丁寧で、さっきだって背中が痛くないように俺を庇いながら、布団の上に押し倒した。 体重をかける腕も体も、俺の負担にならないように気遣ってくれている。 もどかしくて…… もっと、もっと、あなたに触れたいのに。 「ァヒんっ」 不意に胸の実を啄んだ唇に、濡れた声がついて出る。 押さえようと口に伸ばした手は、先生に絡め取られてしまう。 「いけないな、そんな声出して。おばさんに聞こえてしまうよ?」 そんな声を出させたのは先生のせいで、先生はやっぱりズルい。 「俺が口、塞いであげるよ」 濡れた瞳に絡め取られて、唇と唇が重なって、俺達は初めてキスをした。 先生…… 「せんせい……」 「なに?」 「せんせいを、おれだけのものにしたい……」 チュッ 「もうとっくに、君だけのものになってるのに」 君は気づいていなかったのかい? いけない子だな。 じゃあ…… 「俺が君のものだって、ちゃんと分かるように、先生が教えてあげるよ」

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