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五、ハルジオン⑫
夜が明ける。
どうして夜が明けてしまうのだろう。
夜明けが悲しい。
夜が明ければ、あなたはいつもの『先生』の顔に戻るのでしょう。
「フぅ」
「起きているのか」
あなたは問いかける。耳元で囁いて。
あなたの声
現実なのかな。
夢なのかな。
ほんとうに分からないんだ。
(けれど、いま……)
それを確かめるために、このまどろみを開いてしまったら……
あなたの夢は醒めてしまう……
「眠っているのか」
たぶん、体は奥深い眠りの淵にいて。
意識はほんの少しだけ浮かんでいる。
そんな状態。
俺は、眠っているのかな。
それとも起きていて、眠った振りをしているのかな。
自分でも、よく分からないんだ。
あなたの声が心地良い。
「すまないな。少し無理をさせた」
大きな手が俺の頭を撫でる。
優しい指が髪を通る。
意識が白い波の中に落ちていきそうだけど、お願い。もう少しだけ。
(あなたの声、聞いていたい)
チュッ
唇が首筋に落ちた。
胸にも、お腹にも。
腕にも、手にも。
太股にも、脚にも。
茂みを掻き分けた繊細な場所にも。
あぁ、この音……
雨音が落ちるように。
柔らかに、柔らかに。
俺の体を滑るあなたの唇が歌っている。
もう聞く事はないと思っていた、あの歌を歌っている。
俺の体に刻んでいる。
ずっとずっと聞きたかった歌を、あなたが俺に刻んでくれている。
忘れないように。
俺だけに聞こえる歌を、あなたが歌う。
(お願い)
もう少しだけ……
あなたの歌を聞いていたい。
白い波に意識よ、飲まれないで。
夜が明ける。
夜が明けてしまう。
どうかあと少し……
夜よ、明けないでくれ。
いつか明ける夜だけど。
あなたといっしょにいたいから……
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