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五、ハルジオン⑭
俺達は飛ぶ。
明けない空に。
海軍第12空挺師団は、先生を隊長に編隊し、南方海域二0六 地点を目指した。
俺達の終着点である。
……ツッ
通信回線を指で弾いた。
目標地点はまだ先だ。無線を傍受される事はあるまい。
「先生」
……ザッ
『どうした?』
ザラザラした雑音に乗って声が聞こえた。
少し前に聞いたばかりなのに。
不思議と懐かしい。
「伝え忘れた事があります」
『なんだ?』
「自分の搭乗する戦闘機であります」
『おい。今更改まるなよ』
通信の向こうで声が笑んだのを感じた。
「フフっ」
俺もつい笑みが零れる。
『勿体ぶらずに教えてくれよ』
「はい。俺の戦闘機」
エンジンの轟音が、夜の闇を貫く。
「『ハルジオン』と名付けました」
『そうか』
無線の向こう、あなたの面持ちは分からない。
『いい名前だな』
声は……
あなたの声は……
「ありがとうございます」
悲しみの色を潜めた晴れやかな声だった。
もうすぐ消える俺達だから。
最期の瞬間まで共にいたい。
『ハルジオン』は願いを叶えてくれる。
だって。この機体は、あなたの歌だから。
あなたの歌う歌。
あなたの奏でる歌。
あなたが俺に夜、刻んだ歌。
あなたが、俺がまだ幼い時に歌ってくれた『ハルジオン』の歌だから。
俺とあなたしか知らない歌。
あなたの歌と同じ名前を名付けたこの機体で、俺は飛ぶよ。
ずっと、ずっと、ずっと一緒だ。
先生……
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