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六、ハルジオン -夢-

野辺の花 その花の名前を人は知らず、花は咲く。 雨の日も、風が吹く日も咲き続ける。 誰のためでもなく咲き続ける。 名も知らない花が咲く日々が、当たり前だった。 昨日までは。 昨日は急に変わるものじゃなくて。 気がついたら、俺達は昨日を取り戻せなくなっていた。 あの日に帰りたい。 帰ることができない。 野辺の花が咲く日々には帰れない。 俺達の日常はもう、壊れてしまったね…… 『ハルジオン』 あなたが歌わなくなった歌の名前を、俺はこの機体に付けたよ。 (あなたと共に最後まで) ハルジオンに誓う。 花の名前を付けたあの日の歌は、いま俺の戦闘機がエンジン音を夜空へ噴き上げて、もう聞こえない。 届かない。 あの日に帰れない。 俺達の帰る場所は、海の底。 それでも必死に、あがき、もがこう。 ハルジオンは野辺の花だから。 誰のためでもなく、俺達は生きる。 生きたい。 誰のためでもなく。 生きていよう。 (先生) あなたと共に生きていたい。 残された時間、全部。 ハルジオン 俺は今、あなたの歌に包まれているよ。

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