31 / 40
七、空の絆①
『総員、第一戦闘配備』
レーダーが光る。
第12空挺師団に緊張が走る。
操縦桿を倒し、前方右舷 に舵を取る。
識別コード無し
目標地点に近づいた時、不測の事態が発生した時、視力の良い俺が目視する事になっている。
(敵機だ)
二0六地点までは、まだ距離がある。
(哨戒機だ)
偵察機か。
日本軍零戦が空の王者と謳われたのは、過去の話だ。
制空権は奪われた。
機動性において群を抜く零戦は、世界の空に飛翔した。
満州の空を飛び交う零戦に、敵はいない。
だが、しかし。君臨の時代は束の間であった。各国は競って零戦対策の戦闘機を開発した。
そして、次世代。
制空権をとったのは浮沈艦。
被弾しても燃えない空の覇者が誕生した。
機動力を最大限にまで高めた零戦は、軽量化のあまり被弾すると制御不能に陥る欠点があった。
弾が当たれば墜ちるのである。
ゆえに敵の被弾の許さず、敵機を撃墜する高度な操縦技術を必要とする。
この零戦と対極に位置するのが、次世代戦闘機だ。
被弾しても燃えない。
戦闘機は超大型機である。
格好の的であるが、その弱点を凌駕する防御力は零戦をもってしても突破できない。
被弾しながら戦闘に耐え、零戦を射程圏内に捕らえて撃墜するのである。
零戦は過去の王者となった。
F6Fヘルキャット
次世代戦闘機の台頭により、零戦の時代は終焉を迎える。
満州の大空を闊歩したあの時代は、過去のものとなった。
それでも俺達は……
過去の遺物に託すしかない。
時代のうねりに飲まれながら、俺達はそれでも。
生きているのだから。
ともだちにシェアしよう!