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七、空の絆①

『総員、第一戦闘配備』 レーダーが光る。 第12空挺師団に緊張が走る。 操縦桿を倒し、前方右舷(みぎげん)に舵を取る。 識別コード無し 目標地点に近づいた時、不測の事態が発生した時、視力の良い俺が目視する事になっている。 (敵機だ) 二0六地点までは、まだ距離がある。 (哨戒機だ) 偵察機か。 日本軍零戦が空の王者と謳われたのは、過去の話だ。 制空権は奪われた。 機動性において群を抜く零戦は、世界の空に飛翔した。 満州の空を飛び交う零戦に、敵はいない。 だが、しかし。君臨の時代は束の間であった。各国は競って零戦対策の戦闘機を開発した。 そして、次世代。 制空権をとったのは浮沈艦。 被弾しても燃えない空の覇者が誕生した。 機動力を最大限にまで高めた零戦は、軽量化のあまり被弾すると制御不能に陥る欠点があった。 弾が当たれば墜ちるのである。 ゆえに敵の被弾の許さず、敵機を撃墜する高度な操縦技術を必要とする。 この零戦と対極に位置するのが、次世代戦闘機だ。 被弾しても燃えない。 戦闘機は超大型機である。 格好の的であるが、その弱点を凌駕する防御力は零戦をもってしても突破できない。 被弾しながら戦闘に耐え、零戦を射程圏内に捕らえて撃墜するのである。 零戦は過去の王者となった。 F6Fヘルキャット 次世代戦闘機の台頭により、零戦の時代は終焉を迎える。 満州の大空を闊歩したあの時代は、過去のものとなった。 それでも俺達は…… 過去の遺物に託すしかない。 時代のうねりに飲まれながら、俺達はそれでも。 生きているのだから。

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