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十一、歌

ありがとう…… さようならではなく…… まだ君に伝えていない事があるんだ。 「君が与えてくれた俺の命」 あの後、俺は損傷した機体で基地に帰還した。 君を恨んだ。 悔しかった。 君にこんな選択をさせた自分が不甲斐なかった。 君がいない。 どこを探しても、君はもういない。 苦しい。 悲しいを超えると、人は痛みも感じなくなるらしい。 左胸で動き続ける自分の心臓が憎かった。 君を失いたくなかった。 失いたくなかったのにッ 君が生かしてくれた命が苦しくて、憎かった。 「基地に戻って、あの後すぐ……」 ザブン 波が寄せて返す。 「基地が空襲されて、俺は死んだんだ」 ごめんな。 君がせっかく生かしてくれたのに…… でも、だけど。 (再び君に出逢えたよ) 「勇……」 君はもういない。 手の中にいるのは、俺が君に贈った白い貝殻のブレスレットだ。 特攻は遺骨も残らず、海に消えるさだめ。 けれども、それでも。 「君を連れて帰るよ」 ハルジオンの歌を君に刻んだ。 君の魂に刻んだ歌は決して消えない。消える事はない。 俺達が離れる事はないよ。 魂が天上に昇って、再び地上に降りたとしても、必ず君を見つけ出す。 海鳴りが聞こえる。 波の向こうで汽笛が鳴った。 「帰ろう。日本に」 白い貝殻に口づけを落とした。

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