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十二、(後日譚) とある未来の話

ありがとう…… さようならではなく…… まだ君に伝えていない事があるんだ。 「君が与えてくれた俺の命」 あの後、俺は損傷した機体で基地に帰還した。 君を恨んだ。 悔しかった。 君にこんな選択をさせた自分が不甲斐なかった。 君がいない。 どこを探しても、君はもういない。 苦しい。 悲しいを超えると、人は痛みも感じなくなるらしい。 左胸で動き続ける自分の心臓が憎かった。 君を失いたくなかった。 失いたくなかったのにッ 君が生かしてくれた命が苦しくて、憎かった。 「基地に戻って、あの後すぐ……」 ザブン 波が寄せて返す。 「基地が空襲されて、俺は死んだんだ」 ごめんな。 君がせっかく生かしてくれたのに…… でも、だけど。 (再び君に出逢えたよ) 「勇……」 君はもういない。 手の中にいるのは、俺が君に贈った白い貝殻のブレスレットだ。 特攻は遺骨も残らず、海に消えるさだめ。 けれども、それでも。 「君を連れて帰るよ」 ハルジオンの歌を君に刻んだ。 君の魂に刻んだ歌は決して消えない。消える事はない。 俺達が離れる事はないよ。 魂が天上に昇って、再び地上に降りたとしても、必ず君を見つけ出す。 海鳴りが聞こえる。 波の向こうで汽笛が鳴った。 「帰ろう。日本に」 白い貝殻に口づけを落とした。

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