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第2話

「ピンポーン」 インターホンを鳴らして、しばらく待つ。 平日のこの時間、午後の講義が無ければ家に居るかも。と思って来てみたけれど、もし留守だったらどうしよう?と、考えあぐねているうちに、内鍵の開く音が聞こえる。 「だれ?」 言いながらドアを開く無用心さは、相変わらずだ。 「よ」 ニカッと笑顔を向けて、色々を誤魔化す。 「なごみ‥‥!」 驚く彼をすり抜けて、中に入る。 「ごめぇん。シャワー貸して~」 キチンと整頓された廊下を、服を脱ぎながら浴室へと進む。 「ちょ。なご‥‥ッ」 目のやり場に困って、真っ赤になってマゴマゴしてるのが、背中越しでも分かる。 本当、純情なヤツ。 そうやってからかいながら浴室でシャワーを浴びる。 あぁ。気持いイイ。 こうやって好き勝手やって。 で、シャワーから上がるときちんと着替えを用意してくれているであろう、友人。   『智仁(ともひと)』 彼は、高校の頃の僕を知っている、たった一人の友人だ。 教師の暴行事件を、校長に訴えてくれ、教師を懲戒免職にしてくれた恩人でもある。 彼はその後も僕の自宅まで何度も足を運んでくれ、必死に高校を卒業するよう(なだ)めてくれたが、“学校でレイプ”された僕には、どうしても校舎に入る事が出来なくなっていた。 それでも諦めず、僕を励まし続けてくれた智仁にだけは、僕の生存確認だけは出来るよう、家出した後も時々はこうして顔を出しに来ていた。 智仁も、僕を心配してか、むしろ僕の活動範囲内の大学にまで進学して来たのだが。 なんなんだコイツ。僕の事が好きなのか? だとしたら、こんなに無防備で居る僕を襲って来ないなんて考えられないし。 やっぱり思い違いなんだろうか? 智仁の家に来ると、いつもこんな考えに囚われる。 だからあんまりココに来るのは、好きじゃなかった。 「とも、サンキュ」 全裸で浴室から出ると、こちらを振り向かずに正座で固まっている智仁。 「着替え‥‥ソコに置いてあるから」 見ると足元に、きちんと折り畳まれている洋服一式。 「いつもありがと。感謝してる」 下着まで綺麗に折り畳まれて、お前はショップ店員か!なんてツッコミたくなる。 「元気そうで良かったよ」 やっぱり背中越しに言葉を寄越されて 「うん。お陰さまで」 つい、当たり障りの無い返事をしてしまう。 「なごみ、お前‥‥  どうせなら、ココで一緒に‥‥」 また出た。 『一緒に住まないか』 僕が、どんなに汚れてるか、汚いか、知ってるくせに。 きれいなお前の傍に居たら、自分がどれだけ汚れてるか見せ付けられるみたいで。 苦しくなるから、傍には居られない。 ともの暖かさが、居心地の良さが体に染み付いたら、もうきっと、“一人”に戻れなくなるから。 “一人が辛く”なっちゃうから。 そしたら僕の方が、ともを手放せなくなっちゃう。 ともはこんなに良い奴なのに。優しい奴なのに。 将来きっと、明るい幸せが待ってるハズなのに。 僕が傍に居たらきっと、ともの足枷にしかならないんだ。 だから僕なんかが傍に、居ない方が良いんだよ。 多分僕。ともが好きだよ。 「僕。ホモなのに?」 わざと、イヤラシイ口調にする。 そう言って、まだ全裸の状態で、背中から抱き付く。 「な‥‥ッ」 あぁ。耳たぶ真っ赤。こういう事・・・・・にも慣れてないとも。 それはそれで、悪い女に騙されないかとか、心配だけど 僕は、ともから離れるべきなんだ。 「とも、いつの間にか、良い身体付きになったね」 わざと。全部わざと。 ズボンにインしてる上着を引っ張り出して、たくしあげて。 あ。でも本当、良い身体。意外に筋肉質なお腹を撫でて、胸元へ。 細身に見えるくせに胸筋もほんのり肉付いて、柔らかな触り心地が癖になりそうだった。 「や。 やめッ」 慌ててる。それでも強く咎めないのは、僕への優しさなの? そんなの。 「マジ。止まんなくなりそう」 優しさなんかじゃないよ。 「とも」 耳元で囁いて、舌で(なぶ)ってから、ともの顎を(すく)う。 「僕と、こういう事、出来る?」 深く、深くディープキス。 「ん。んン」 軽く抵抗するのに、解かない(ずる)さ。 ともは、ズルい。 トドメとばかりに、キスで軽く勃起したソレを、ともに押し付けた。 「!!んッ!」 今度ばかりは、鈍いともにも想像が付いただろう。 僕が、何を求めているかを。 自分が、それを与えられない事を。 「やめろ!」 ゆでダコみたいに真っ赤なとも。 これでもう、僕を更生しようとするのは、諦めてくれよ。 意地悪してごめんね。 僕はゆったりと着替えを掴むと、下着とパンツを手早く身に付け、上着を羽織ってから玄関へと向かった。 とも。今までありがとう。大好きだよ 「さようなら。とも」 それだけ言って、僕はとものアパートを後にした。 やばい。泣きそう。 溢れそうな涙を、上を向いて誤魔化して。 とりあえず誰かに慰めて貰おうと、いつもの場所に向かう。 時間はもう夕方。 帰宅時間が救いになって、良い人を運んで来てくれますように。。。     *     *     *

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