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第3話

「「あ」」 そこに着いた瞬間、同時に言葉を発する。 「惣太(そうた)さん」 以前にも何度か寝た人。 知った顔にホッとして、そしたら我慢していた涙がまた溢れた。 「おいおい、そんなに俺に会えたのが嬉しいのかい?」 優しい冗談に、 「うん」 そんな嘘を吐いて、思わず抱きついてしまった。 惣太さんは30代後半で、小さい工場の社長さん。 僕を気に入ってくれていて、わざわざこの場所まで足を運んでは、いつも僕だけを待っててくれる。 『今日会えなかったらどうしてたの?』 以前に聞いた質問にも 『今日はそういう日だったんだな。と思って、次また会えるまで通うだけだよ』 そう、ふんわり笑ってキスをくれた。 僕の、癒し担当。 『落ち着けるように』 と連れて来てくれたのはラブホだったけど、何もせず、ただ僕が泣き止むまで抱きしめてくれていた。 「落ち着いた?」 背中を摩って、顔を覗かれる。 きっとすごいブスになってるハズだった。 「こんな表情見られるなんて、僕はラッキーだな」 そう言って笑う惣太さんは、本当に男前だと思った。 こういう人を好きになれたら、楽なのかなぁ? ただただ甘やかしてくれて、優しくしてくれて。 そうやって愛に溺れて生きて行くのも、悪くないかもしれない。 「そぅ「なごみ君さ」 名前を呼びかけて、遮られる。 「お腹空いてない?」 さすが惣太さん。何でもお見通し、って感じだ。 うん。と一つ頷いたら、またふんわり笑顔を浮かべて、受話器を取る。 ラブホのメニューなんて大した種類は無いけど、テキパキと注文する量の多さに、『あぁ、惣太さんもお腹空いてたのか』と、改めて今の時間を思い起こす。 とっくに日は暮れて、夜の19時。 だいぶ迷惑を掛けてしまったかもしれない、と惣太さんへ視線を移すと、電話を終えてソファへ戻って来る所だった。 「すぐ来るからね」 言いながら隣に座って、頭を撫でてくれる。 「ごめんなさい。迷惑掛けちゃった」 見つめる惣太さんの瞳の中の、どこか寂し気な影に、一瞬戸惑う。 「迷惑だなんて思わなくて良いよ」 言いながら、今度は頬にキスをくれる。 「もしかしてさ」 「え」 「なごみ君、もしかして  好きなコにでも振られちゃった?」 そう言ってから、顔を覗かれた。 本当、惣太さんには敵わない。 枯れるほど泣いたハズなのに、また涙がジワリと浮かぶ。 それだけで 「そ っか」 勘の良い惣太さんは察してしまった。 「僕、これでも自信あったんだけどなぁ‥‥」 寂し気な声で、顔を背ける惣太さん。 「そっかー。 僕は、なごみ君の本命には  なれて無かったかぁー」 溜息を吐くみたいにそれだけ言うと、膝に肘を乗せる形で項垂れた。 「僕。惣太さんの事 大好きだよ」 思わず肩に手を充てて、表情を確認しようと覗き込む。 「知ってるよ」 見えるのは、ニコリと笑う口元だけ。 惣太さんは、いつも笑ってるから 本当の気持ちは、実はよく読み取れない。 「なごみ君は 優しいから」 言葉の真意も、読み取れない。 「だから、残酷なんだよね」 「え」 意味を理解出来ずにいると、ドアホンが鳴る。 「はい」 瞬時に反応して、ドアまで料理を取りに向かう惣太さんの後を追う。 思った以上に大量に運ばれて来た料理を、惣太さんが支払いしている間に、数回に分けてテーブルに運んだ。 「まずは、腹ごしらえしますか」 支払い終えて戻って来た惣太さんが、あまりにもいつも通りだったから、僕もそれ以上余計な事を詮索するのは辞めた。      *      *      * 食後、食休みしようと惣太さんが僕を抱っこする恰好でテレビを見る。 もちろんコソコソ身体中をまさぐるので、集中なんか出来っこなかった。 「集中出来ない」 小声で訴えてはみるけれど 「僕の事は気にしないで」 なんて無茶な事を良いながら、後ろからそっとうなじに舌を這わす。 「んッ」 小さく反応する僕を見るのが楽しいのか、こんどは上着を捲くり上げて、両乳首を摘まれた。 「ゃ アン」 クリクリ楽し気に弄りながら、首筋に細かいキスを降らせる。 「だ め」 もう、口から出るのは言葉の意味とは真逆の吐息。 「ダメなの?」 わざと意地悪くそう言って、耳朶を軽く()む。 「ん。 んン」 堪らなくなって(うずくま)る僕を、上手にお姫様抱っこすると、 そのままベッドへと運ばれる。 ベッドに下ろしたそのままの勢いで、ディープキス。 いつもより激しく吸われて、胸が疼いた。 「ん。 ぁン」 そのままの状態で上手に服を全部(むし)り取られると、首筋を吸われ、舌を這わせ乳首を(なぶ)られる。 「んアッ は」 快楽にピクン。と反応するのは、身体と下半身。 膨れ上がるソコを嬉しそうに扱く惣太さんの表情は、本当、エロい。 悔しい気持ちが湧き上がって来た僕は、身体を反転させると、惣太さんのソコに手を伸ばして、喉の奥まで咥え込んでやった。 「ぅ わ。ちょッ」 予想外の展開だったのか、動揺する惣太さんに満足した僕は、わざと音を立てて吸い付き、上下に扱く。 「あ。 ッぅ」 ビクビクする惣太さんの反応が可愛いくて、舌先で先端をチロチロと細かく刺激する。 「あァ。そ れ ヤバ。ッ」 もうイキそうな状態のソコを、わざと強く吸いながら、根元から何度も扱いて行く。 「う。 あァ‥くッ」 息を荒げて射精した体液を、音を立てて吸い上げ、飲み干す。 思った以上に多くて、『溜まってたのか』と思わずにいられなかった。 「惣太さん の、美味しかったよ」 ニヤニヤしながらそう言ってやったら 「んな‥‥ッ」 ガックリと肩を落とされてしまう。 オーバーにリアクションする惣太さんに、つい笑ってしまった。 「今度はこっちの番だ」 そう言って上体を起こすと、僕の両足を大きく開いて、間に顔を埋める。 隆起したソコを根元まで咥えながら、いつの間に購入したのか、ローションを指に塗りたくると、秘所へと侵入させる。 「あン。ふ。ゥん」 前と後ろの同時攻撃に、全身が性感帯になったように快楽に襲われる。 惣太さんも意地悪く、大きく音を響かせながら、僕が悦がるのを楽しそうに眺めていた。 「あッ。あァ。んンンッ」 小さく身震いして達してしまうと、惣太さんも僕のソレを飲み干す。 「はい。おあいこ」 よほど悔しかったのか、それだけはしっかり(つぶや)くと、僕の両足を自分の肩に乗せて、身を沈めて来る。 「は。あァん」 いつもより大きく、いつもより深く感じるのは、何故だろう? それから激しく腰を打ち付け、朝まで何度も抱き合った。      *      *      * 目が覚めると、すでに明け方で、惣太さんの出勤時間とかが心配になる。 「そ」 惣太さんの名前を呼ぼうとして、一瞬固まる。 (うつぶ)せのまま寝てしまった自分。に、覆いかぶさるように眠ってしまったのであろう惣太さん。 思いっきりセックスの途中だったのが、未だ入りっぱなしのソレで分かる。 ムクムク膨らむソレは、朝立ちのアレなのか、続きのソレなのか 「惣太さ‥‥ん?」 とりあえずその犯人の名を呼んでみる。 「‥‥ゥ。ん?」 まだ寝ぼけているその声は 「あ」 自分の現状を把握出来た覚醒へと変わる。 「ぁ ははッ」 そしてその現状を楽しむかのように、固くなっていくソレを益々固くしようと、腰をグラインドさせて行く。 「ンあ。ちょ。そう た さ あぁン」 乾いた体液の剥がれる音に混じる、水音。 きっと体内に残ったままの、セックスの残骸、か、ローション。 そうして何度目かのセックスをして、シャワーを浴びながら後処理をしていたら、あまりにも長かったらしく、惣太さんが入って来てしまった。 一緒にシャワーを浴びて、後処理を手伝って貰いながらまたイかされて、身支度を整える頃にはもう、お昼近かった。 「会社、大丈夫なの?」 心配を口にする。 「あぁ。うん。今日は午後出にする。」 「良いの!?社長がッ!?」 「社長だから、良いの」 そんなやりとりをして、ホテルを後にしてから、朝食兼、昼食を食べにファミレスへと向かった。 「ご馳走様でした」 お店の駐車場。深々と頭を下げて、お礼する。 「うん。良いの良いの」 にこやかに笑顔で返す惣太さんに、改めて違和感。 「あ」 うやむやになってて忘れていた。 「僕、惣太さん大好きだよ?」 「それもね。もう良いよ」 頭を撫でて、惣太さんが口を開く。 「色々込みで、もう会うの辞めよ?」 一瞬、何が起きているのか、言葉の意味が理解出来無かった。 「僕はさ?」 名残惜しそうに、頭を撫でる。 「なごみ君に本気だったんだよね」 笑顔も、いつも通り 「いつか、なごみ君の、本命になれたら。って」 穏やかな、声も 「でも。昨日のなごみ君を見たら」 いつもと同じ 「あぁ。無理だ。って」 に、振舞っているだけ。 「なごみ君があんな表情、僕にはきっと、向けてくれない。って」 そこまで言って、ギュッと抱き締められる。 「だから。バイバイ」 昼間の駐車場。 家族連れが好奇の目で見ているのが分かった。 「大好きだったよ」 そうして、優しくキスを残して 惣太さんは一度も振り向かず 去って行ってしまった。 茫然自失(ぼうぜんじしつ)。 とは、この事を言うのかもしれない。 僕はしばらくその場を動けなかった。 本当は、惣太さんを追い掛けて行きたかったけれど、『さよなら』を告げた相手を追い掛けるには、僕自身の中の「好き」は未熟すぎた。 これ以上(すが)ってはいけないと、自分の中の何かが、ブレーキを掛けていた。 動かない足。 動かない思考。 このまま立ち往生してたら、お店の人に迷惑が掛かる。 やっとそこまで動いた思考が、どうにか足を前に進めさせる事に成功する。 でも、どこへ? そんなの決まってる。 僕が行っても良い場所なんて、向かっても良い場所なんて、初めから一つしか無かった。 茫然(ぼうぜん)と、それでも一歩づつ、ゆっくりと歩を進めながら、僕はいつもの場所へと向かう。 たとえ其処に誰も居なくても。 僕の拠り所は、あそこしか無いのだから。。。

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