2 / 13

1 過去·····遥輝

初めて自分のしている行動がおかしいのだと気づいたのは、中学二年のころだった。 僕はいつものように両親の仕事の手伝いをしていただけだった。 今日は僕の父親の会社の本社の人がくるらしい。 急に会社に呼ばれた僕が通されたのは、よくありがちな応接間なんかじゃない。 奥にのれんがかかった小さな部屋。そののれんのまえにある椅子に座っている中年男性。父親とともにその男性に頭を下げる。 「やぁ、この子が君の息子の遥輝くんかい? 」 「はい。あの…折角我が社までお越しいただきましたので、何かおもてなしをさせていただきたいのですが」 父親の声に促されるように、一歩中年の男性の前に出て、ひざまずく。 「ほぉ、これはこれは。なかなかの別嬪さんじゃないか。本当に男の子なのかい? 華奢な体つきがまたそそるねぇ」 「それでは私はこれで。遥輝! しっかりおもてなしするんだぞ! 」 「はぃ…」 「声が小さい!」 「はい。わかりました」 父親はちっと舌打ちするとまたにこやかな顔を浮かべ男性に礼をして部屋を後にした。 これ以上はあまり思い出したくない。 強引にのれんの向こうに引きずり込まれ、僕の悲鳴は誰にも届かない。 だけど僕は、この行為が普通だと思っていた。 行為が終わったら、父親が褒めてくれる。 母親は病気で病院で入院しているから、誰も僕を見てくれる人なんていなかった。 嬉しかったんだ。痛みを我慢すれば、普段は見向きもしない父親が僕に関心を示してくれる。 それだけが、僕の幸福だった。 「いいかい遥輝。お前が協力することで会社が大きな利益を生むことができるんだ。 そうすれば、母さんをもっといい病院へ入院させることができる。 分ったかい? これは母さんのためなんだ」 「僕が頑張れば、お母さん元気になって帰ってくる? 」 「あぁ、遥輝が頑張ってくれればな。だけど、母さんには内緒だぞ。 何も知らないほうが早く病気を治すことができるからな! 」 僕が我慢すれば、母さんが元気になって帰ってくる。 そうすればこんな苦しい思いをしなくてよくなる。 その一心で、僕は父親の手伝いをしていた。 だけど、僕もだんだんと大人になっていく。 自分がしている行為が男同士でするものではないこと。ましてや親が子供にさせる行為ではないこと。 そんな痛い思いをせずとも、親に愛される子供がいること。 その事実を知っても、僕には引き返すことなんてできなかった。 それは、今までの自分を否定してしまうことになるから。 それだけは、なにより自分が許せなかった。

ともだちにシェアしよう!