4 / 13
3 再開
大学へ進学し、都会に出て一人暮らしを始めたころには、一週間に一度だった行為が毎日へと変わっていった。
その頃から年のせいなのか、相手にしていた人たちから口説かれることが多くなった。
「君みたいに積極的な子は嫌いじゃない。もう一度会ってくれる? 」
「いいけど、僕から連絡したいから連絡先教えて」
「初めて見たとき、君が運命の人だと思ったんだ。僕と付き合ってくれる? 」
「ごめんなさい。あなたの気持ちに答えたいけど、今は無理なんだ。次に会ったときに返事していい? 」
付き合ったりするのは嫌だけど、そんな風に思ってくれる人がいることに、少し後ろめたさがあった。だから、あくまで優しくその場を濁して、そのまま連絡を絶っていた。
きっと皆、過去のことを知ったら離れていくにきまってる。
だったら、最初から一人でいたほうがいい。
特定の相手は作らない。じゃないと、僕が耐えられない。
そんな日々でも、あの頃よりはましなんだ。
今ある幸せが少しでも続くよう、頑張るしかない。
そう、思っていたのに‥‥。
「やぁ、遥輝。久しぶり」
「お、お父さん‥‥」
バイト帰り、自分の住むボロアパートに帰ると、扉の前に男が座っていた。
胸騒ぎがしたんだ。自分とうり二つな少し茶色がかった髪の毛。座るシルエットが、あの頃と何も変わってなかった。
「な、なんで‥‥」
声が出ない。恐怖で体がすくんで、一歩たりとも動けない。本当は今すぐこの場を離れなきゃいけないのに。
お父さんは僕の姿を視界に捉えると、無言で僕の持っていたカバンをあさりカギを取り出した。
そのまま強引に腕をつかまれ、部屋へと引きずり込まれた。
「や、いや‥‥」
誰か助けて。なんで、どうして僕の居場所が分かったんだ。今更僕に何を望むんだよ。
怯えた体を床に放り投げられ、身がすくむ。
「やーっと見つけた。探したんだぞ、遥輝」
「ど、どうし‥‥」
「いやそんなことはどうだっていいんだよ。父さんはな、お前の力が借りたくて、ここまで来たんだ。父さんを、無下にはしないよなぁ」
「い、やだ。やめてよ。もう、僕にかかわらないで。お願い、だから」
「ふーん。なら、この写真がどうなっても文句は言わないよな? 」
写真? その一言に背筋が凍った。
「お前が会いたくないっていうんなら、この写真を売って、生活しようかな?」
ポケットから出されたその写真は、まさしく、あの頃の僕の写真であった。
いっきに記憶がよみがえってくる。
「わ、わかった、わかったから、お願い! それだけは! 」
「よしよしお前は、わかってんじゃねえか。ちょっとした頼みなんだよ。金を貸せなんて野暮じゃない。あることを手伝ってほしいだけなんだ。
頼むよ。そしたら写真も捨てるし、お前の前にも二度と現れない」
もう、うなずくしか、選択肢がなかった。
いやだった、だけど、だけど、やるしか他に、方法は‥‥。
「ぼ、僕は、何をすればいいの‥‥」
父さんが、にまーっと笑った気がした。
ともだちにシェアしよう!