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3 再開

大学へ進学し、都会に出て一人暮らしを始めたころには、一週間に一度だった行為が毎日へと変わっていった。 その頃から年のせいなのか、相手にしていた人たちから口説かれることが多くなった。 「君みたいに積極的な子は嫌いじゃない。もう一度会ってくれる? 」 「いいけど、僕から連絡したいから連絡先教えて」 「初めて見たとき、君が運命の人だと思ったんだ。僕と付き合ってくれる? 」 「ごめんなさい。あなたの気持ちに答えたいけど、今は無理なんだ。次に会ったときに返事していい? 」 付き合ったりするのは嫌だけど、そんな風に思ってくれる人がいることに、少し後ろめたさがあった。だから、あくまで優しくその場を濁して、そのまま連絡を絶っていた。 きっと皆、過去のことを知ったら離れていくにきまってる。 だったら、最初から一人でいたほうがいい。 特定の相手は作らない。じゃないと、僕が耐えられない。 そんな日々でも、あの頃よりはましなんだ。 今ある幸せが少しでも続くよう、頑張るしかない。 そう、思っていたのに‥‥。 「やぁ、遥輝。久しぶり」 「お、お父さん‥‥」 バイト帰り、自分の住むボロアパートに帰ると、扉の前に男が座っていた。 胸騒ぎがしたんだ。自分とうり二つな少し茶色がかった髪の毛。座るシルエットが、あの頃と何も変わってなかった。 「な、なんで‥‥」 声が出ない。恐怖で体がすくんで、一歩たりとも動けない。本当は今すぐこの場を離れなきゃいけないのに。 お父さんは僕の姿を視界に捉えると、無言で僕の持っていたカバンをあさりカギを取り出した。 そのまま強引に腕をつかまれ、部屋へと引きずり込まれた。 「や、いや‥‥」 誰か助けて。なんで、どうして僕の居場所が分かったんだ。今更僕に何を望むんだよ。 怯えた体を床に放り投げられ、身がすくむ。 「やーっと見つけた。探したんだぞ、遥輝」 「ど、どうし‥‥」 「いやそんなことはどうだっていいんだよ。父さんはな、お前の力が借りたくて、ここまで来たんだ。父さんを、無下にはしないよなぁ」 「い、やだ。やめてよ。もう、僕にかかわらないで。お願い、だから」 「ふーん。なら、この写真がどうなっても文句は言わないよな? 」 写真? その一言に背筋が凍った。 「お前が会いたくないっていうんなら、この写真を売って、生活しようかな?」 ポケットから出されたその写真は、まさしく、あの頃の僕の写真であった。 いっきに記憶がよみがえってくる。 「わ、わかった、わかったから、お願い! それだけは! 」 「よしよしお前は、わかってんじゃねえか。ちょっとした頼みなんだよ。金を貸せなんて野暮じゃない。あることを手伝ってほしいだけなんだ。 頼むよ。そしたら写真も捨てるし、お前の前にも二度と現れない」 もう、うなずくしか、選択肢がなかった。 いやだった、だけど、だけど、やるしか他に、方法は‥‥。 「ぼ、僕は、何をすればいいの‥‥」 父さんが、にまーっと笑った気がした。

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