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4 出会い
夕方より少し早い時間。
指定された飲み屋の前で、僕は足を止めた。
渡された資料を見て、そこに書かれた人物の名前を頭の中で復唱する。
最上 祐 。年齢は22で、〇〇〇株式会社の次期社長だといわれている。黒髪の見た目に反し、女男関係なく遊び歩いていた。
ここまでの内容だけを見ても、あまり関わりたくない人種だ。
「ぼ、僕は、何をすればいいの‥‥」
「父さんな、今会社を経営してるんだが、ある会社に邪魔されてあまり業績が伸びないんだ。だから、その会社の社長の長男に近づいて、大事な資料を奪ってこればいいだけの話だ」
「それが奪えればお前は自由に生きられるし、父さんはそれを使って一儲けができる。どうだ、悪くない話だろ。ま、お前に拒否権はないがな」
「猶予をやるよ。時間はもって半年だな。それまでにあいつを落として資料を奪うんだな」
飲み屋の角の席。写真で見た通りの黒髪の男が一人で飲んでいた。
少し離れた席から、男の顔を確認する。
写真より、顔が整って見える。優しそうな目で、温和な雰囲気を持っていた。
意を決して男の横に立つ。ちらりと顔を上げた男。
「ね・・・お兄さん。一人なら、僕と一緒に飲まない? 」
一瞬、驚いたような顔を見せたが、すぐに値踏みされるような目つきで、僕の体を一瞥した。
「・・・いいよ」
「ありがとう」
横のいすに腰掛け、相手の様子を探る。
「僕、椎名遥輝 。お兄さんの名前は? 」
「裕」
資料通りの名前。まず相手に接触する第一関門クリア。
「遥輝は学生? もしかして未成年じゃないよね」
いきなり呼び捨てかよ、と思いながら、酒を一品注文した。
「今年でちょうど二十だよ。裕さんは、やっぱり僕より年上だよね。というか、僕ってそんなに幼顔? 」
意識させるため、少し肩を寄せる。
「いや、綺麗な顔立ちだとは思ったよ。だけど、お酒は飲まなそうに見えた」
お酒がでてから、数時間喋り続けた。
聞いていた話とは違って、やっぱり優しくて面白い印象を受けた。
僕よりいろんなことを知っていて、彼がしゃべる内容は、とても僕の興味をひくものだった。
お酒も数杯飲み、酔ってきて、もう帰ろうかと思っていた時
「ねぇ、このあとって時間ある? 」
と、彼から誘ってきた。驚いた。そんなに早く引っかかるとは思っていなかったから、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「い。いいけど・・・なんで? 」
あくまで、純情そうなふりをする。
その時、ぐっと腰を引き寄せられ、耳をかぷりと甘噛みされた。
「ひぇ、」
「ふっ、耳弱いんだ」
耳元でささやきながら、彼は僕の手を握ってきた。
「もうこれで、なんで? なんて、聞かないよね? 」
意外だった。こんなに口説かれるとは思ってなかったから、思わず顔に熱がたまる。
必死にこくこくとうなずきながら、彼の腕をつかんだ。
第二関門クリア。
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