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苦手(つむぎ)

『うわぁあん、』 おねしょした、とアラームで目を覚まして 下半身がびしょ濡れのことに気付いて ほぼ泣きながらシャワーに向かった しかもアラームなってんの気付かなかったみたいでちょっと寝坊した、と 急いで身体を洗って びしょ濡れになっているシーツとパジャマと下着をとりあえず水に付けておく 『うえぇえん、』 もうやだ、おねしょ久しぶりにしたし 自分で片付けていると余計悲しくなる けど泣いている暇もなくて 急いでバイトに向かった 祈織さんのおねしょシーツを使っていたおかげで布団が無事だったのがせめてもの救いだ 『おはようございます!』 と、わりとギリギリに駆け込んで 急いで着替える 「おはよう紬くん。なんかバタバタしてるね?寝坊しちゃった?」 『んん、ちょっと寝坊しちゃって。あとおねしょしちゃったから片付けてたら時間ギリギリになりました、』 と、バタバタ着替えながら説明するが 「え?」 『あ、』 「……紬くんって、なんていうかオープンなんだね」 『ぅわぁあ、マスター、忘れて!』 「……うん、努力するけどさー」 『もおお、』 と、誰にでもなく怒る 情けないことバラしてしまった 『……マスターっておねしょしたことある?』 「ええ、物心付いてからはないけど」 『……ふーん、』 「大変だったねー、ベッド?お布団とかどうやって片付ければいいか僕わからないもん」 『あー、それはおねしょシーツ敷いてるから布団は無事でした』 セーフセーフと上機嫌で答えると マスターは首を傾げる 「おねしょシーツってなに?」 『防水のシーツ?みたいな?布団まで行かないんですよー』 「へー、そんなのあるんだ」 『はい、それないと布団ダメになっちゃうんで』 「…というか、そんなの持ってるって、紬くんってよくおねしょしちゃうの?」 また墓穴掘った、と顔を両手で覆う 『…よ、よくじゃなくて、たまに、いや、本当に久しぶりだったんです、たまーに、』 看板出してきますねー、とさりげなくその場から離れて誤魔化す この前もマスターの前でおもらししかけたし マスターにおねしょした事もバレちゃったし…気をつけよ 『マスター、オープン前かあがりの時に1回コーヒーいれてみてもいいですか?おれ、ちょっとやり方覚えてきたから』 「えー、すごいじゃん。じゃあ上がりの前でいいかな?」 『はい!お願いします!』 と、ちょっと楽しみになった 覚えてきてよかった ◆◆ 『どうぞ、お納めください』 と、マスターに教わったコーヒーの入れ方で 練習というか、家には道具が無いからイメトレになったけどどうにか手順を覚えてきた通りにコーヒーをいれてマスターに飲んでもらおうと マスターの前にコーヒーを出す おれも味見、と カップに自分の分もいれてマスターが飲むのを待つ マスターは少しだけカップを回して 匂いを嗅いでゆっくりと口をつける 「うーん、悪くないけど。攪拌がちょっと甘いかな?あとフィルターにヘラが当たっちゃってるから少し色が濁ってるのわかる?」 『た、しかに、』 「まぁ、この前教えたばっかりなのに上出来だよ、練習すればきっと良くなるよ」 『ありがとうございます!』 と、自分でも味見をしようとカップの中を見るけど 確かに色味もマスターが入れたコーヒーのがキレイだし 香りも違う 1口飲んでみても まぁ……豆が美味しいからそこまで酷くは無いけど…… マスターのコーヒーとは全然ちがう 深み的な物が やっぱり修行しなきゃダメなんだなあ と、カップの中のコーヒーを一気に飲み干して 『おれ今日学校休みの日だからもっかいやってもいいですか!』 と、聞くと マスターは笑顔でうん、とうなずいてくれた 「でも紬くん」 『はい、なんですか?』 「コーヒーカフェイン入ってるから気をつけてね?紬くんお手洗い近いみたいだから」 『そ、それは…えっと、マスターおれの事すぐ漏らすって思ってません?だ、大丈夫です、たぶん』 「うん、それならいいんだけど。一応ね」 そんなこと言われたせいか、 単純に思い出したのか はたまたイマイチ一気に飲んだコーヒーか、 背筋がぷるっと少しだけ震えた 『えっと、もう1回やる前におしっこ、』 「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね」 と、急いでトイレに駆け込んで ちょろろ、とトイレにおしっこをした なんだ、そんな溜まってなかった マスターが変なこと言うから気にしすぎただけだったらしい ふう、とため息を吐き 手を洗って戻ると 「…大丈夫だった?」 『大丈夫です!ちょ、マスター心配しすぎ!この前のとか!…えっと、今朝の、えー、ぉ、ねしょ…とか本当に滅多にしないんですから!そんな心配しなくて大丈夫です!』 「そう?まぁ、どっちでもいいけど」 と、マスターは笑った どっちでもいいのかな? 『引かないの?大人なのにおもらししちゃうって、』 「うーん、まぁちょっとびっくりしたけど。誰だって苦手な事とかはあるでしょ」 そうかな、そういうもんなのかな、 マスターやっぱり余裕あるんだなあ 『えっと、おれ、中学生からはおねしょ減ってたんだけどね、』 「え?うん、」 『最近、お酒飲んだりとか…あと普通にたまに、失敗しちゃうことがあって…』 「へえ、そうなんだ。ストレスとか?」 『わかんないけど、』 「紬くんは元からお手洗いそんな得意じゃないのかもね」 『そ、そうなのかな?』 「元からおねしょ?しなくなるのも遅かったみたいだし」 『え!そうなの!?え?小6までおねしょほぼ毎日してたっておそいの!?』 え、知らなかったんだけど いや、たしかに修学旅行生とかみんなおむつ履いてなかったからおれ1人でこそこそ履き替えたけど! っていうかおれまたマスターに恥ずかしい秘密暴露しちゃったの? そういえばマスターも物心ついてからないって言ってたしな…… 『ねえ!わすれて!おれの恥ずかしい秘密』 「だって忘れようとした傍から紬くんか自ら上塗りしてくるんだもん」 『そ、それは…じゃ、じゃあマスターの恥ずかしい秘密教えて!苦手な事とか!』 「ええ、そんな急に言われても…苦手な事かあ」 と、少し考え 「うーん、あれが苦手かな、」 『なに?』 「虫とか?」 『………ふつう、』 「そんな急に言われても思いつかないよ。考えとくね」 と、マスターは笑った マスターって、凄いんだなあ 祈織さんと違って料理とか掃除もちゃんとできる人だし 苦手な事とか少なそうだし、 いつもニコニコしてるし。 コーヒーいれるのうまいし。 祈織さんはめちゃくちゃかっこいいけど 生活能力ひくくて、たまにおもらしとかする所とかなんか人間味あったけど マスターって、なんか、 なんていうかな? サイボーグ??

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