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涙腺(祈織)
映画見に行こうぜ
と、なんだか知らないけど
映画に誘われたから
一緒に映画を見に行って
なんかよくわかんないけど
デートみたいだった
『ポップコーン』
「食うの?いいよ。何にする?」
『キャラメル』
「キャラメルと塩のやつにしよ」
『え、半々のやつにすんの?』
「うん、俺も食うし。飲み物は?」
『オレンジジュース』
「カルピスじゃなくていい?」
『うーん、オレンジ』
「うん、じゃあお前はトイレ行っといで。途中で行きたくなっちゃうから」
と、おれをトイレに行かせて
買いに行ってくれる
本当にあいつなんでもしてくれるよなあ
『ありがとう』
「うん。よし、そろそろ入れるなー、行くか」
『うん』
1歩後をついて歩く
『おれ、これ映画館で見るつもりなかったのに』
「なんで?」
『絶対泣くから。恥ずかしいじゃん』
「お前の泣き顔なんて見慣れてるし」
『意地悪いわないで』
ソーシャルディスタンスーと
1個空いた席に座って映画が始まるのを待った
あれ、そういえば一緒に映画行くのって
一緒に住んでた時以来かも
◆◆
『だからあんまり顔見んなって』
「だからいまさら見慣れてるって、」
と、言う割に
1度おれの顔を見て
ぐしゃぐしゃと頭を撫でたあと顔が見えないようにフードを被せてくる
『なんでお前は泣かないの?感動とかしないの?』
「するぞ?映画も良かったし」
『最後に泣いたのいつ?』
「ええ、…、いつだ?」
『涙腺死んでんじゃねえの?』
「…うっせえ、お前は泣きすぎ」
『……、だって、おれだって別に泣き虫じゃねえよ』
なんで、こんな涙止まんねえんだろ
映画は感動したけど
映画は見終わっているのに
ずっと涙が止まらないでいた
「まあ……お前は泣いてもいいけど」
『……むかつくう、おれもう30なんだけど』
「30歳の服装じゃねえよな」
『なんだよ、おれのパーカーだめなの?』
「いや、久しぶりにお前の私服見たらなんか若く見えるなって」
『……おれ貫禄的な物が出ないんだよなぁ。だってお前昔おれのこと拾った時今のおれより若かったろ?』
「あぁ、そういやそうだな」
『なんかお前の方が大人にみえるな?』
「俺は昔から実年齢より上に見られやすいから」
『…今、顔に実年齢追いついてるよ』
「あぁ、そういやそうかもなー」
こいつもうすぐ40か、と埋まらない年齢差を考え、40歳にしては若く見えるかも
いや、なんか出会った頃から変わんない気もする
「もう泣き止んだか?泣き虫」
『ちっがうし。泣き虫じゃねえし』
「まだ泣いてんじゃん。シバ、あんまり外で泣くなよ」
『…別に泣きたくて泣いてるわけじゃねえし、なんで?』
「お前泣いてるとムラムラすんだろ」
『…変態じゃねえか』
「変態じゃねえし。お前の泣き顔が悪い」
『なんだよ、その悪口』
「…別に悪口じゃねえけど」
『…なぁ、』
と、一歩後ろを歩いてたけど
ちょっとだけ走って前に出て
下から顔を覗き込む
「…なんだよ、急に」
『いや、ムラムラしてる顔してんのかなって思って』
「……、どうだった?してたか?」
『…うん、エロい顔してた』
「へえ、お前のせいだ」
『…、なぁ、』
「なに、祈織」
『……この後さ、』
「うん、」
『ホテル、いかねえ、?』
「しょうがねえなあ、」
と、言いながらも
車に乗るとすぐに発車させて
きっとホテルに向かってくれるんだ
そう思うと下半身がむずむずして
少しだけ座り直す
「どこのホテルにする?」
『なんでもいい、はやく、』
「1番近いところでいいか?」
『うん、』
早く、と腰が揺れてしまう
早く、キスしたい、
早く慰めて欲しい、
そう考えるとまた涙がボロボロ零れて
おれってこんな泣き虫だったっけ、と自分がわかんなくなる
「シバ、なんで泣いてんの?」
『…わかんない、』
「もうちょい待ってな、あ、ホテルあった」
と、すぐにホテルの駐車場に車を停めて
泣いている俺の手を引いて車から降りる
『…ふつうの、ホテルじゃん、』
「何がダメなの?」
と、俺の事を待たせてとっとと宿泊の手続きをして
結構いい部屋に案内される
『…なんで、こんな部屋泊まんの、』
「ええ?いいだろ、たまのデートだし」
『家から結構近いのに』
「だからたまにはいいだろって」
おいで、とソファーに座って手を広げるから
すぐに上に乗ると背中を撫でてくれる
「シバ、なんか悲しいことあったか?」
『…なんも、無いけど、』
「じゃあなんで泣いてたの?」
『映画が、』
「へえ、映画。感動して外でずっと泣いてたの?」
『なんで意地悪な言い方すんの、』
キスしたい、と顔を見ると
ちゅ、と瞼にキスをしてくれる
「お前の泣き顔見るのは俺だけでいいのになー」
と、言われてムカついたからすぐに唇にキスを返す
そんな事言うなら、
ちゃんとおれのこと独占しとけよ。
『なぁ、おれの泣き顔見たらムラムラすんだろ?早く、続きして、』
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