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今日(つむぎ)
「紬くんって絵下手だね」
『ええ!』
「そんなんじゃ子供逆に泣いちゃうよ。なに?これ」
『ええ!猫ですよ!』
「血吐いてるの?」
『吐いてない!べろ、ペロってしてるんだけど!』
「あー、うん、そうなんだ。やっぱりしばらくは僕が描こうかなー」
と、マスターはおれの描いた動物の絵のコースターを端っこに置いた
絵の描いた子供用コースターが減ってきたから追加で描いていたら
どうやらおれの絵は却下されてしまったようで
マスターの描いたコースターの絵を見る
いや、確かにマスターの絵上手だけど
おれのもそんな酷くないと思うんだけどなぁと、自分の描いたコースターの絵を見る
いや、そうか。
確かにマスターのに比べたらおれの絵は大人向けかもしれない
ピカソとかわかる世代には絶対わかるととりあえず祈織さん用に取っておく事にした
『そういえばなんで祈織さんのコースターは子供用なの?』
「あの人ちょっと子どもみたいじゃない?ぐすぐす泣きながら来てたりしたから」
『え?祈織さんそんな泣いたりすんの?』
「最近はそんな見ないけどね、朝あんまりつよくないのかな?泣いてたり不機嫌な顔しながら連れてこられたりしてたから」
そんな祈織さん想像出来ないんだけど
祈織さんぐずぐずしないでしょ?
『祈織さんコースター喜んでた?』
「喜んでたかわからないけどね。いっつも見てくれてたよ、ちゃんと。それで一緒に来てた人にも見せてた」
『へえ、社長かな』
「社長?祈織さんと一緒にいた人社長なの?」
『うん』
「え?あのちょっとマッチョな人?」
『そうそう。ガタイいいおっさんでしょ?かっこいいスーツ着て高そうな車乗ってる』
「あーうん、その人」
『社長だよー、祈織さんが働いてた会社の』
「え?祈織さんって社長にあんな世話焼かせてるの?」
『え?そんなに?なにしてんの?』
「ええ、まぁ、なんていうか…甘やかされてる感じ?フレンチトースト社長が切って食べさせてあげたり」
『ええ、』
なにそれ、ラブラブじゃん…
てか、おれが知らない祈織さんのこと
めっちゃ聞いちゃった
おれが知ってる祈織さん、
ちょっと天然で生活能力ないけど
そんな甘えんぼな感じじゃなかったのに
いや、よっぱらったりしたらちょっと甘えんぼっぽかったけど、
それでもちゃんと大人で…
そういえば前に田中さんも祈織さんの事甘えんぼって言ってたような……
そんなラブラブだったのに祈織さんは社長のお家出て行っちゃったの?
ますますわかんないんだけど…
まぁおれと一緒で1人前になりたいから出た的な事言ってたけど…
っておれも1人前になりたいから祈織さんのお家出たんだった…
『祈織さん元気かなー。1ヶ月くらい顔みてないな』
「会ってないの?意外」
『祈織さん忙しかったら申し訳無いかなって』
「まあ確かに仕事変わったばっかりって忙しかったりするもんね」
『でもちょっと会いたくなったから連絡してみます』
サイフォンもだいぶ上手になったから祈織さんに見せたいし、と
仕事の休憩のタイミングで祈織さんに連絡してみることにした
なんて連絡しようか迷って
元気ですか?
と、どうでもいい内容だけ送ってしまった
そしたら
この前熱出た
と、ちょっと経ってから返信が来てて
あの人よく熱出すからな、と心配になった
季節の変わり目とか
忙しかったりするとよく熱出すし、
そういえば田中さん戻ってきました?
と、この前の汚い祈織さんの家を思い出して聞いてみると
みなちゃん戻ってない、部屋汚い。
なんかご飯連れてくから部屋キレイにして
と、意外な所でお誘いをいただいた
いつがいいですか?
おれは夜なら基本的に大丈夫です
返すと
今日
の、2文字だった
そんな部屋汚ないのかな?
急を要するほど?とちょっと心配になったけど
今日の夜祈織さんと約束をして
迎えに来てもらうことになって
ご飯を食べてから祈織さんのお家にいって片付けとかして、そのままお泊まりすることになった
ええ、久しぶりの祈織さん楽しみだなー
いや、うん、おれ、実は
もう祈織さんのこと
恋愛的には多分だけど好きじゃ……ない、
けどなんていうか祈織さんかっこいいし
憧れ的な?人間的に、
普通に好きだし。
かっこいい兄ちゃんみたいな
憧れの兄ちゃんみたいな
恋愛的に好きとかなくても会いたいって思うの変なことじゃないよね?
だいたい男同士だから
ちょっとおこがましいけど友達みたいな…
それに、祈織さんもおれのこと好きじゃないのにこうやって会ってくれるし
休憩が終わると今日祈織さんと会えるんだ、と少しホクホクした気持ちで仕事に戻った
『休憩いただきましたー』
「はーい」
『マスター、上がる前1回コーヒーいれるの見てもらっていいですか?』
「うん、いいよー」
『今日祈織さんと会う約束したから見せたくて』
豆買ってこ、と頭の中で考える
「紬くん大丈夫なの?」
『あー、はい、もう大丈夫なんです。なんていうか、お友達?みたいな?』
「紬くんが辛くないならいいけど」
と、マスターはいつものようににっこりしながら言った
『おれ、人に心配してもらうことあんまりないからマスターがそうやって心配してくれるの嬉しいです』
「そうなの?僕は紬くん見てると心配で目離せないけど?」
『え!おれそんな仕事できないですか?』
「あー。ごめん。そういう事じゃなくてね?」
『おれ、見ためこんなんで頼りないけど意外に大丈夫なんだねってみんな言うから。だから、意外に心配しなくて大丈夫なんですよー』
「そっか、じゃあ僕はこのまま紬くんのこと心配してよ」
『え?大丈夫って、』
「だってこの子は大丈夫って思われてたら本当に助けが必要な時頼れないでしょ?」
『そ、それは、』
そうだけど、なんでマスターそんな事いうの
頼っていいみたいじゃん、そんなの
『マスターって、』
「うん?」
『モテますよね?』
「人並みだよー」
と、マスターはコーヒーを入れながら言ったけど
モテないはずがないな、この人
優しいし
なんでもできるし
サイフォンでコーヒー入れられるし
…イケメンだし
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