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七不思議(ヤナギ)

やなせさぁん、 おれ、かのじょよりやなせさんにつくしますよ? だから、わかれておれと付き合いませんか? 出張先で酔っ払って寝ぼけながら抱きついてきて耳元で言われたあきらくんの言葉 翌日、本人はすっかり忘れていたようで そのままケロッとしていて 何事もなく仕事をして帰った 寝ぼけていたのか酔っ払っていたのか 言葉の真意は全くもって分からない だいたい俺には彼女なんていないし 誰かと間違っているのか? 例えば瀧とか 瀧は結婚したくて婚活してるらしいし なんかこの前デート行くとか ちょっといいお店に行ったらしいし 「あ、柳瀬さんおはようございます」 「あ…あきらくん、おはよう」 「きょう寒いっすねー」 と、何事もなかったように言うから恐らくなんかの間違えだったのだろう、あの言葉は そうなったら瀧相手と間違えたのが濃厚かな? あきらくんは確かバイだかゲイだかだったから 男相手でもなんにも違和感ないし そもそも、身近に今まで女の子としか付き合ってなかったのに急に男の子相手に翻弄している社長やその相手の魔性の少年、シバくんもいる 社長も男前だし シバくんだって相当顔はいい だから多分 女とか男とかより まぁかっこいい方がモテるんだろうな 中身も外見も だから、俺のようなフツメンより ちょっと天然でずれてるけどイケメンの瀧の方が間違えなくモテるだろうし…… つか瀧はイケメンなのに婚活してるし…… 俺なんてただのフツメンなのに婚活もしないで仕事ばっかりだから彼女いない歴なんて考えたくもないくらいになっていた 「瀧どう?出雲の効果でてる?」 「いや、付き合っていた子いたんですけど」 「けど?」 「なんていうか振られました」 「なんで?」 「毎回同じなんですよね」 「…何が?」 「何考えてるかわからないって」 「あー、」 まぁ、瀧って独特だしな 「それより柳瀬さんはなんで結婚しないんですか?」 「…相手が居ないからだけど」 「この会社の七不思議のひとつですよね」 「なに、七不思議って」 「いや、会社というか個人的にですが…」 「うん、」 「柳瀬さんにどうして彼女いないのかっていう」 「……七不思議って他になんかあるの?」 ほら、やっぱり独特なこと言う 「えー、社長が結婚しない」 「それは……まぁ、」 社長にはシバくんがいるし… 「ちゃんと7個言ってよ?」 「シバさんのスーツが急に変わる事がある」 …いや、それはあれじゃん、 おもらししちゃったんでしょ 「なぞの水たまりが良く5階にあるらしい」 それシバくんでしょ…… 「会社のコーヒーまずくて誰も飲まないのにずっと変えない」 あぁ、それは確かに 「前はよく歩いてた清掃の人が最近いない」 シバくんがおもらししないからそこら辺歩いてないんでしょ…あの人シバくんのおもらし片付け係みたいになってたし 「社長って常識人なのにこの会社を思いついた理由」 ……シバくん見たからでしょ 「まさか以上?」 「不思議ですよね」 「いや、べつに」 「そうっすか?」 「本気の不思議1個しかなかったけど」 「え、知ってるんですか?教えてくださいよ」 「やだよ…っていうか俺に彼女ができないのなんて単純にモテないだけだし」 「いや、そんな事ないですよ。モテてますし」 「いやいやいや、モテてるってどこにだよ、」 「例えば新月さんとか」 「…………は?」 「しょっちゅう言ってるじゃないですか、飲んだ時とか。柳瀬さんに落ちた話聞いてくださいって」 「……--…いやいやいや、」 いや、冗談だろ…… 酔った時って言ってるじゃん あきらくんはきっと酔ったらそうやって冗談言うタイプなんだろう、そうに決まってる そうじゃなきゃおかしいだろ あきらくんが好きな人は俺のわけない だってシバくんにしょっちゅうちょっかい出てたし そうだ、何かの間違えだ 「じゃあ送迎行ってきます」 「はい、よろしくねー」 「あ、そうだ」 「何?」 「婚活事務所の人に聞いたんですけど」 「うん、」 「自己評価低いと恋人できにくいらしいですよ」 「………ふーん」 いやいやいや、 別に普通だし そんな、低くないでしょ? 職業柄、顔がいい人をよく見るし 社員も顔で選ばれてるんじゃないかってくらいイケメン多いし… その中にいたら当たり前に俺なんてフツメンだし ……仕事しよ もう考えるのもめんどくさくなってきた こういうのが恋人できない理由ってのもなんとなくわかっていた 色恋沙汰とかめんどくさくなって 仕事に逃げてたら 働きすぎって社長に怒られる所までいっちゃうやつ 「はぁ、」 と、大きめのため息を吐きディスクの上の書類に取り掛かる 「戻りましたー、って柳瀬さんどうしました?なんか疲れてます?」 「………あきらくん、おかえり」 「はい、なんか手伝います?」 「いや、大丈夫だよ」 「そうっすか?あ、コーヒー飲みます?柳瀬さんそこのサーバーの嫌いですよね。入れてきますよ」 「いや、うん」 「え?なんですか?」 「………そこの、飲む人いないでしょ?」 「ええ?オレ飲みますよ?いれんのめんどくさいんで」 「そこのおいしくないって有名じゃん。飲んでる人見たことないよ」 「ええ?俺飲んでますって」 ……瀧、飲んでるやついたわ 七不思議でもなんでもないわ と、既に送迎に向かった瀧に心の中で伝えて仕事に取り掛かる すると、 「はい、コーヒー」 と、ディスクにコーヒーが入ったカップが置かれる そこのおいしくないコーヒーじゃなくて ドリップのちゃんと入れたやつ 「あぁ、入れてくれたんだ。ありがとう」 「いいえー」 と、あきらくんはそこの不味いコーヒーを飲みなが言う 「え?俺の分だけ?」 「え?なんでですか?」 「いれんのめんどくさいからそのおいしくないコーヒー飲んでるんでしょ?俺のいれてくれるなら自分のいれればよかったのに」 「ええ?だって自分のはめんどくさいけど柳瀬さんにはめんどくさくないし」 なんか俺疲れてんのかなー あきらくんが何言ってるかよくわからない せっかくだからあきらくんが入れてくれたコーヒーをいただきパソコンを打ち始めた うん、うまい 「あきらくんってさ、俺の事好きなの?」 「…………は?」 「……………え?俺なんか言った?ごめん。忘れて」 と、あきらくんの顔を見て 何やらとんでもない事を言ってしまった事に気付く いや、俺疲れてんのかな 「………好きっすよ、柳瀬さんの事」 と、気まずそうに目を逸らしながら言ったあきらくん 「あー、ごめんごめん、気使わせたよね?変なこと言ってごめんね?ちょっと俺タバコ吸ってくるね」 いや、俺疲れてるのか 仕事しすぎたなー

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