37 / 80

遠慮(祈織)

「とりあえずシャワーな。気持ち悪かったりは?」 『ないです、』 「風呂で死なれたら困るから汚れたところ流したらさっさと出ておいで。着替えとか用意しとくから。服は…とりあえず洗濯するし」 『すみません、』 と、淡々と指示をされ うん、と頷いて 言われた通りさっさと身体をあらって 汚してしまった服とパンツも予洗してシャワーから出ると タオルと着替えを用意してくれてて 申し訳ないと思いながらそれを借りる 『あの、でました』 「うん。服は?」 『あ、借りました、』 「じゃなくて汚したやつ」 『えっと、』 「洗濯しちゃいな。洗濯機使い方わかる?」 『えー、と、』 「洗剤とかわかんねえか、どこにあるか」 と、洗濯機のところまで来て 俺の代わりに洗剤とか柔軟剤とかセットして 洗濯機を回してくれる 『ありがとうございます、』 「うん。とりあえず今日は泊まっちゃいな。そこのソファーでいい?あれなら布団出すけど、床に敷くやつ。でも干してねえよ」 『あ、でも、かえります、』 「もう遅いだろ。帰ったところで明日の朝にまた来るんだろ」 『でも、』 どうしよう、 今日お酒飲んだから、寝たらおねしょする気がする それなのにこの人の家に泊まることなんてできない おむつだってないだろうし おれ、大人なのにすげえ情けねえ 情けなさすぎてこの人の顔もまともにみれないし 「服だって洗濯終わってねえし」 『…おわったら、』 「乾燥までしてるから時間かかるよ。ほら、俺も風呂入っちゃうから適当に寝な。あ、歯ブラシとかそこの棚の中に新しいやつあるから」 『えっと、』 はい、と頷くしかできなかった だってタダでさえ迷惑かけてるし これ以上駄々をこねて迷惑なんてかけられなかった 「俺も風呂はいったら寝るし。好きにしてていいから」 『ありがとうございます、』 とりあえず歯磨こう、と 言われたところから歯ブラシを出して歯を磨いた 寝なければいいや、 明日帰ってからいっぱい寝よう ◇◇ なんとか一応トイレにもちゃんといって うとうとしたりはあったけど ほぼ寝ないで朝まで我慢できた ほぼ寝なかったからおねしょもしなかったけど ねむくて仕方なかったから顔を洗ってどうにか目を冷ます 「おはよう、早起きだな。仕事開始10時からでいい?」 『おはようございます、はい、大丈夫です』 「大丈夫?よく眠れた?眠そうな顔してるけど」 『はい、』 と、さりげなく嘘をついた 「朝飯どうする?」 『あ、おれ、なんか買ってきます。泊めてもらったし、昨日迷惑かけたから』 「別にそんなんいいよ」 『でも、そこにドトールありましたよね?おれコーヒー飲みたいし、タバコも吸ってきたいんで』 「そっか、じゃあお願いしようかな」 『何がいいですか?』 「うーん、モーニングのAと飲み物はロイヤルミルクティー」 『ロイヤルミルクティー、』 「何?バカにしてんの?コーヒー飲めないんだよ」 『へえ、』 それは意外だった おれのまわりコーヒー飲める人ばっかりだしな 『行ってきます』 と、スマホとタバコをもって家を出る そういえばあの人タバコも吸ってないかも 他人の家だからおれもタバコ吸わなかったけどあの人吸ってんの見たことないし会社の喫煙所でも見たことないな おれのまわり、吸う人ばっかりだったな つむは吸わないか、 ドトールでちょっと一服して 朝ごはんを買って戻ると おれの洋服が畳んでおいてあった 「おかえり。乾いたから出しといたけど」 『ありがとうございます』 「志波くんってもしかしてだけど俺の前で遠慮してスマホ触んないようにしてる?全然触ってんの見たことないけど」 『いや、キャッシュレスで使ってるぐらいでほぼ触んないです』 「なんで?連絡とか大丈夫?」 『はい、とくに、急ぎの連絡とかこないし』 「え?いや、友達とかは?」 『最近連絡取ってなくて』 「は?え、なんかごめん」 『いえ、普通に会ったらご飯行ったりするんで大丈夫です』 よくあきらくんと連絡取らない時期とかあるし。 でもご飯とか行きたくなったら普通に連絡するし、連絡も来るから気にしてなかった お持ち帰りしてきたコーヒーを飲むとねむくてぼーっとしていた頭がちょっとだけ起きた気もする 『キャラメルシュガー、くれました』 「これ貰えない時あるよな?」 『あります、貰えるとうれしいですよね』 「わかる、わざわざ下さいっていうのもなんか違うんだよなあ」 すごいわかる、 「志波くんはモーニングBにしたの?」 『よくわかりますね、どれがAとか』 「俺そこの常連だから。毎朝行ってた、出勤の時は」 『近いから便利ですよね』 「なー、」 と、モーニングのAを食べるから 少しだけ見てしまった そういえば、ひとと仕事以外の会話 全然しなかったのに、昨日からこの人とよく話す 久しぶりに人間として会話してる気がする 「つか、家に志波くんいるといいな」 『え?何がですか?』 「いや、最近ずっとリモートだからまじで喋んないじゃん。孤独なひとり暮らし勢は」 『あー、おれもです』 軽く喋り方忘れるくらいには人と会話してねえなあ、つむもいないし 「明日以降もたまにおいで。家近いし」 『いや、そんな…迷惑、』 「仕事わかんないとこ教えるんだから迷惑も何もないだろ」 この人、結構怖いと思ってたけど 案外ふつうに喋るんだな

ともだちにシェアしよう!