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味覚(志波)

「志波くん、そろそろ起きな」 『…んん、』 どこだっけ、ここと 目を擦りながら起き上がり辺りを見回すと そういえば先輩の家に居たんだと思い出す 『おはようございます、』 「あぁ。どうする?シャワーとか浴びる?」 と、聞かれ直ぐにお尻の違和感に気付いた 念の為に履いていたおむつはびしょ濡れになっていて ずっしりと重たい 膨らんでるかも、おむつ履いて、おねしょしたのバレるかも、 『あの、……帰ります』 「は?どうした?いきなり」 『いや、あの…』 「あー、それ?昨日志波くん寝ぼけてたから知ってる。大丈夫」 『…寝ぼけてた?』 「夢見てた?」 『夢、』 みた、 『カレー、作った夢、見てました』 初めてカレー作った日の夢だ 「カレー?昨日作ったから?」 『…たぶん、』 「そっか。それだけ?」 『…はい、それだけです、』 あとは、今のおれが思い出しちゃいけない夢だった 「そっか、それでシャワー浴びんの?」 『おれ、なんか言いました?』 「…いや。別に。おねしょしたって言ってたくらいかな」 『………』 一番恥ずかしいこと言ってんじゃねえか、と頭を抱えた おれ寝ぼけてそんな事言っちゃったんだ 『シャワー、おかりします、』 「んー、」 シャワーを浴びていると 夢のこと、思い出したら行けないのに 初めて匡平の誕生日を2人でお祝いした時の事を思い出してしまって少しだけ悲しくなった もうあれ多分10年くらい前の話かな まだ、何にもできないペットのおれが ペットだけは上手くできてた頃のおれが 匡平の誕生日をお祝いする為に色々考えたこと 匡平になんでも与えてもらっていたおれは プレゼントは何をあげればいいかわからなくて 匡平がしてくれたみたいに高級なレストランとかもわからなかったからカレーを作った 匡平が作ってくれたの見たから、おれも作れるようになったんだよって 匡平に教えたかったけど やっぱり匡平が作るカレーみたいに上手に作れなかった 野菜はキレイに切れなかったし 玉ねぎは焦げたのに人参は少し硬かった 肉も自分で切れないから切れてるやつにしたし どれぐらいの量作ればいいかわからなくて大量になってしまった 味も、やっぱり匡平が作るカレーより辛かった でも匡平はおいしいっていっぱい食べてくれて、 翌日匡平がカレーうどんにしてくれて それはおれもおいしく食べた あぁ、思い出してしまった、と 少しだけ鼻をすん、とすすって 顔からお湯をかけて誤魔化した 早くシャワー終わりにして仕事の準備しよう、 『シャワー、ありがとうございました』 お水、と昨日コンビニで買ってもらった水を飲む タバコ吸いに行こうかな、いや、でも充電してねえから金無いや 「うん、志波くんカレー食う?昨日の残り」 『え、それ、辛い、』 でも残っても困るから食べなきゃだよな、と いただくことにして 「騙されたと思って食ってみ」 と、先輩の言葉になんだろう、と首を傾げながらいただくと 『…ん、うま、』 辛くない、昨日より おいしい、 「だろ?」 『これ、昨日のですよね?』 「うん。辛いから食えるように調べてはちみつ入れた」 『へぇ、』 はちみつ、 だから、食えるんだ、 と、思ってもうひと口食べたけど 『……、』 もや、と視界が歪んで急いで目元を拭った なにこれ、 なんで、泣くんだよ、おれ 「どうした?まだ辛かった?まだ辛いなら牛乳も入れてみるけど」 『…いえ、』 辛くない、ちょうどいい 辛いのそんな強くないおれでも食べれる味 匡平の作ったカレーの味を思い出してしまった 「…食べれなかったら残しな」 『…いえ、食べます、』 匡平の作ったカレー、実はあんまり食べたことない 匡平は、おれが作ったカレーが食いたいからって 家であんまり作ってくれなくなった だから、そんな覚えているつもり無かったのに 味覚ってすげえんだな、 思い出してしまった 「志波くんってさ、なんか我慢してる?」 『我慢?…何がですか?』 「いや、自覚ないならいいけど」 『自覚?いや、おれなんも我慢できてないです』 おしっこも我慢できないし、 泣くのも我慢できない 1人で家にいるのも我慢できないから ここにいるのに そんなおれが何か我慢できているわけなかった 「志波くん、カレー苦手?」 『…いえ、好きです』 「カレーって、家の味するよなー。志波くん実家どこ?」 『川崎の辺りです』 「近いじゃん」 『…まぁ、近いです』 「実家のカレーの味とか覚えてる?」 『いや…、…でも、食べたら思い出す気がします』 「そういうもんだよなあ」 先輩は前に座ってカレーを食べ始めた 泣かないようにしよ、おれ大人だし 早く慣れなきゃ、1人でいることに

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