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後輩(先輩)
妙に距離感がある後輩が気になっただけだった
だから多少強引に家に呼び
仕事をして少しでも距離を縮めようと思っただけだった
こいつの最初の印象なんだっけ、
あぁ、
「顔が良い」
だ
『なんですか、急に、』
「いや、志波くんってキレイな顔してるよなって。言われない?」
『…まぁ、たまに』
と、肯定するのも納得できる容姿の彼の
恥ずかしい失態を目撃したのは
初めて家に呼んで飯に行った時の帰り道だ
普段は
ツンケンした態度というか
至ってクール
馴れ合わない
会話も必要最低限で
笑わない後輩の泣きそうな顔を目にした所で
あー、こいつも人間だったんだ、と
納得したと同時に心配になった
どっか壊れてるんじゃないかな、こいつ
そう思ったのは、
俺の8つ下の弟が現在実家で無職で生活しているからだ
弟は元から感情豊かだった
ただ、新卒で入社した会社がひどいブラック企業で精神的に追い込まれ1年ほどで退職した
その後、就活もせず
ただ、引きこもったりも特にする訳ではなく
実家に帰ったら普通に会話もするし、
至って普通の態度だけど笑わなくなった
何にもせず、何もかも諦めてただぼーっと人生の時間が過ぎるのを待っている感じだ
いっそ引きこもったりでもしていたら
心配も出来るし、病院に行くなりそれなりの対処も出来るのに、働かないだけで
普通に生活する弟に、何もしてあげることは出来なかった
だから、弟と笑わない後輩を重ねてみてしまった
今、こいつ1人にしたら弟みたいになるかもしれない
表面上は普通にしてるけど
何もかも諦めてしまうかもしれない
だから、家に置いてみたんだけど…、
泊めた翌日は顔色がいつもより更に白い気もして、仕事中も眠そうなのを必死に耐えていた
やっぱり気を使って眠れなかったのか
眠いならそう言えばいいのに
まぁ、言えないかと仮眠を提案した
そして
その1時間後に、
顔が良い後輩の2度目の失態を目撃する事になった
仮眠を提案したものの、
俺本人は眠くなく、適当に1時間ほど寝室で時間を潰していて
そろそろ戻るかな、とリビングに戻ったタイミングで
しゅぅう、ぴちゃぴちゃとリビングでは聞きなれない音が響いていた事に気付く
なんだ、とその音の出処を探すと
すぐに後輩からという事に気付く
「あー、」
大人ってこういう事するんだ、と
よく理解が出来なかったけど、
「おねしょ?」
だよな、これって
志波くん起こした方がいいよな、
いや、でもまた泣きそうな顔すんだろうな、
少し迷って
『きょ、へい…んん、ごめん、なさ、』
と、身体を動かすと泣きそうな声で何かを発した
寝ぼけてるのか、
とりあえず片付けるかな
いや、先に起こした方がいいのかな
と、片付け方もわからないまま
とりあえず志波くんの身体をずるずると引きずっていると目が合って
起きたかなと思っていたら状況を理解したらしく
泣きそうな顔をした
あー、ふつうに笑わせて見たいだけなのに
昨日から泣かせそうになってばっかりだな
その後も落ち込ませてばっかりだった
カレー作ってみても喜ばせることはできず
辛くて2人ともようやく1杯食ったぐらいだし
カレー辛かったから志波くんおねしょ大丈夫かなと少し心配していたが
ふと夜中に目が覚めた時に
様子を見に行ってみると志波くんはなんだかソファの上でもぞもぞと動いていて
寝付けないのかと覗き込む
「あれ?志波くん起きてんの?やっぱりカレー辛かったから喉乾いたよな、俺も」
『んん、』
「寝てる?」
『おしり、』
「おしり?」
『きょうへ、』
「志波くん?」
きょうへ…昨日もなんかそんな事言ってたよな
きょうへい?誰だ?
と、後輩が発した名前か何かに少し思考を巡らせていると
『んん、きょ、おねしょ、』
「は?おねしょ?」
『んん、おねしょ』
と、もぞもぞと動きながら続けるから
マジで漏らしたのかな、と毛布が捲るけど
「濡れてない?」
『…んー、おむつ、かえて』
「おむつ…履いたの?」
『だって、』
と、気を使ってかおむつを履いて寝たようだった
確かに言われてみれば腰周りが妙にモコモコしている
おむつ履いているようだけど、本当におしっこも出てんのかな
「ええ?志波くん、起きな?大丈夫?」
と、肩に手を置いて少し揺らすが
『んんー、いっしょに、ねよ』
と、志波くんの腕が伸びてきて
きゅっと抱きつかれる
『へへ、きょうへ、』
と、今まで一緒にいても笑わなかった後輩が
少しだけ笑った
夢見てんのかな、
いい夢なんだろうな
よしよし、と背中を少しだけ撫で
再びソファに志波くんの身体を横にしてやった
「俺は志波くんが思ってる人じゃないよ」
『んん、なに、』
と、うっすら志波くんの目が開いたけど
目が合う前に毛布をかけ
その場を後にした
翌日、
夢を見たか聞いてみると
カレーを作った夢を見たとだけ答えた後輩。
なのに、また寂しそうな捨て犬のような顔をした
俺がどうこうできる問題じゃないな。
まぁ、ちょっとでも気分転換になってたらいいけど
妙に顔が良くて
下が緩い
捨て犬のような後輩
俺がどうこうできるようなもんじゃないけど
そのまま無視する事もできないのは
長男の性か
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